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「紀元前1万年」スティーヴン・ストレイト 単独インタビュー
「靖国」李纓 監督 単独インタビュー
私が結論を出すのではなく、観た人たちそれぞれが自分で考えてもらいたい
誰も知らなかった歴史がここにある−。日本人にとって複雑な思いを抱かせる、アジアでの戦争の記憶をめぐる歴史。その歴史を持つ靖国神社を10年に渡って記録し、完成させた映画「靖国」。靖国神社のご神体である刀、「靖国刀」の鋳造を黙々と再現してみせる現役最後の刀匠の姿を靖国の象徴として描くこの作品は、観る者の胸に多くを問いかける。そんな靖国神社の姿を日本の内部からとらえ続けたのは、日本在住の中国人である李纓監督。監督に、この映画にまつわる様々なことを彼に尋ねてみた。
なぜ靖国神社を題材にした映画を作ろうと思ったのですか?
日本に来て19年経つのですが、日本で長く生活していると友達ともいろんな話をするようになって、戦争問題とか歴史問題とかが自然と話題になるんです。そういう話を深くしてみると、人によって考え方が違うんですね。そこにはギャップが存在するんです。直接のきっかけとしては1997年に開催された南京事件60周年のシンポジウムですね。そこで「南京」という記録映画が上映されて、国旗掲揚や国歌斉唱が行われて、会場では熱烈な拍手が起きたんです。そこで私は機関銃に打たれたようにすごく体が震えてしまいました。60年という月日が経ってもまだ中国侵略は誇りとされ、感激されている。そのことはやはり信じられませんでした。

当時のそういった色々な刺激が重なったことと、あと私は日本監督映画協会の国際委員会の委員でもあるんです。そこで同じ委員である伊藤俊也監督が「プライド」という映画を作ったんです。それは東条英機の東京裁判での闘いや、日本の尊敬・自衛戦争に負けないような英雄の姿を描いていたんですが、それが日本でヒットしたことも私としてはショックな出来事でした。日本のプライド・歴史の考え方というものはどういったものなのか、そのプライドは何と繋がっているのか、歴史問題はどう捉えられているのかを、もっと知りたいと思ったんです。またそういう議論をいくらしても意味がないので、私も私なりの作品を作った方がいいと思いました。この映画はそれに対しての一つの答えでもあるんです。そう思って10年間かけてこの映画を作りました。
この映画を観てもらって、一人ひとりのお客さんに歴史の考え方をもう一度見直してもらうことが監督の願いということなんですね。
それを考えてもらう効果が映画の中にあると思います。この映画は“空間”をテーマにしています。靖国という空間、またその空間の中の魂とは何なのか、その魂にどんな意味があるのか、それは何を象徴しているのか…。それを見るためにそれぞれの角度からいろんな扉を開いているわけです。ただそういう角度というのは私が中国人だというところからスタートしていますが、この映画は単なる中国人としての立場、感情的なものをこえて、日本の内側から見て、“靖国神社”はどんなものが象徴とされているのか、どんな意味を持っているのかに焦点を当てたんです。そこにはそれぞれの立場・角度が描かれていると思います。

色々な人たちに映画を観てコミュニケーションしてほしい。大切なことは、私との直接のコミュニケーションではないのです。この映画には私の思い全てを込めています。映画を観ること自体が出演している人たちとのコミュニケーションであり、私とのコミュニケーションでもあるのではないでしょうか。映画全体を通して、各シーンを単なる現象として出しているわけではなく、私なりの考え方や視点が入っています。

靖国神社と刀をモチーフに、戦争問題や様々な現象と結びついたものが一本の鍵となって、色々なドアが開かれていく。本当の靖国の魂は何なのか、どんな特別な意味を持っているのかを問いかけているのです。そういった問いかけに対して私が結論を出すのではなく、観た人たちそれぞれが考えてもらいたい。そういうコミュニケーションの取り方が、とても大切だと思います。というのは、これまで何十年を経ても、いまだに解決できていない問題だからです…。私ではなく、日本人それぞれが考えるべき問題ではないでしょうか。誰もが今まで無意識に見ていなかった、無視してしまっていた、忘れてしまっていたこと。そういうことをきちんと見つめ直す必要があると思います。
監督自身は靖国神社をどういうところだとお考えですか?
一つの巨大な装置ではないでしょうか。日本の近代史の記憶、近代国家としての出発点と非常に繋がっている装置でもあると言えます。日本が近代国家として成立した明治時代に明治天皇が作った神社でもあるし、いろんな記憶がその中に刻まれている。

大切なのはそういう装置を使う人間、あるいは国家の問題だと思います。どういう風にそれを利用してどんな目的を達成しようとしているのか…、それが重要だと思います。視点が違うと、全く違った見え方になってしまう可能性もあります。

靖国神社は、建物自体は問題ではないのです。どんな魂が祀られているのか、それについて人々はどういう記憶を持っているのか…。そこにこそ特別な意味性があるのではないでしょうか。

靖国神社は最も巨大な一つのシンボルでもあり、戦死した軍人に対して天皇から与えた巨大な勲章でもある。ではこの勲章は戦争の歴史、戦争責任問題について、どういう意味を持つものなのかを考えなければならない。ただそこはずっと瞹昧な部分だから混乱、衝突、矛盾を生じているところがある。日本の戦争責任問題・歴史問題の現状を物語っているのではないでしょうか。
「紀元前1万年」スティーヴン・ストレイト 単独インタビュー
映画の中に登場する日本刀を作り続ける老人(刀匠)を通して伝えたかったことはどんなことですか?
魂が一本の刀に宿る、靖国神社の御神体の一つは刀であると事実があります。それをモチーフとして、象徴的に描きたいと思いました。刀を作ること、ひいては職人というものが、日本人の象徴ではないでしょうか。巨大な装置の中で、それぞれが自分の仕事を誇りに思っているという意味においてです。

人間は生きている限り、個人と国の関係、また人間の生と死の問題について、誰もが美しいものだと願っているはずです。誰でも死ぬときは格好良く死にたい、名誉ある死に方をしたいと思うのではないでしょうか。それは自分の国がおこなってきた戦争の歴史をどのように見るのか、そしてその中にある美しさや残虐さをどう捉えるのかという問題に繋がっていくと思います。

両面性があるからこそ刀は、日本人の精神性において最高の美学ともいえる。靖国神社は、ある意味では平和を象徴していると思います。国の平和のためにあり、美しい名のもとに美しいシンボルとして機能している。どこの国も自分が主体だし、どんな戦争でも正当化して聖なる戦争をしたいという意識はあるでしょう。悪い戦争だったら誰も参加しないし、聖戦を強調したいのはどこでも同じことです。聖なる戦争と聖なる神社、そして聖なる刀の中に、どんな歴史、どんな真実があるのかを見ないと、本当の刀の美しさも出てこないではないでしょうか。
映画の中で小泉首相が靖国神社を参拝する場面が出てきますが、監督自身は小泉首相の参拝についてどう思いますか?
それは気持ちの問題ですね。彼が言っているのは心の問題、それは正しいと思う。問題は、そのこと自体がどんな意味を持っているかということです。彼は「二度と戦争が起こらないように」と言っています。これは万国共通の正論です。日本の人たちも、政治家も戦争がしたいなんて思っていませんよね。

昔の戦争も全部平和のためという名目でおこなっていますし、仕方がなく結局は戦争をしてしまう。どこでも同じことです。“大東亜戦争は平和のため”というのも、同じ論理だと思います。その時は誰が戦争の犠牲になるかなんて分からないけど、仕方がなく戦争を起こしてしまう。そこは歴史観の問題でもありますが、どのように戦争や歴史を見てきたのか。(小泉首相は)政治家としてちゃんと考えて発言しなければいけないように思います。

小泉首相が言っているように、参拝自体は心の問題です。それがどんな心の問題かなのです。戦争で亡くなった方々や自国の戦争の歴史にどう向き合うかが大切ではないでしょうか。映画の中に首相の参拝に猛烈に反対する日本人の若者が出てきます。「アジアでどれだけ多くの人が殺されたか、小泉首相の参拝にどんな意味があるのか」と叫ぶ彼ら声は無視できないと思います。そういった声を無視したり忘れてしまうこと自体が、日本の本当の悲劇ではないでしょうか。
戦争の加害者と被害者が合祀(ごうし)されていることについてはどう思いますか?
それは日本人が考えるべき問題ではないでしょうか。例えて言うならば刑事事件で、殺人犯とその被害者が、一緒のお墓に入っているということです。問題は、戦争責任者は誰なのかということです。靖国神社にとって、彼ら(加害者)を戦争責任者じゃないということでしょう。では誰が戦争の責任者だったのか、それは日本人が考えるべき問題だと思います。そのことが曖昧だと対外的にどう責任を取ったらいいのか、分からなくなってしまうのではないでしょうか。
最後に、これから「靖国」をご覧になる方にメッセージをお願いします。
日本人は魂を持っている民族だと思います。伝統的な神道に根ざした社会も、多く存在しています。戦争や歴史問題をより深く考えるときに面子が大切なのか、それとも魂が大切なのか…。本当の魂は何なのかということを考えてほしい、そう思っています。
編集部の呟き
今回は靖国神社がテーマということで少し緊張していた私ですが、笑顔が素敵な監督の姿を見てホッとしました。監督はインタビューに日本語で応じてくださり、包み隠さずありのままを語ってくださいました。この映画を観て、私自身もすごく考えさせられました。みなさんも一度、この映画を通して監督と靖国と日本と、そして自分と「対話」をしませんか?
(取材・文・写:浦川瞳)
profile
[李纓]
1963年生まれ。1984年、中国中央テレビ局(CCTV)のディレクターとして、ドキュメンタリー制作に携わる。1989年、来日。1993年、プロデューサー張雲暉とともに、映画テレビ番組製作プロダクション「龍影」を設立。1999年、映画デビュー作である「2H」では、ベルリン映画祭優秀アジア賞、香港国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞した。以来、劇映画「飛呀飛」(01)、記録映画「味」(03)、劇/記録映画「モナリザ」(07)とコンスタントに作品を発表、そのすべてがベルリン映画祭に招待される。「味」では、マルセイユ国際映画祭エンペランス賞、「モナリザ」では、フランス・アミアン国際映画祭審査員大賞を受賞した。その他、日本のテレビ番組を数多く製作し、NHKハイビジョンスペシャル「北京映画学院夢物語」では日本放送文化基金賞及びATPドキュメンタリー優秀賞受賞した。
「靖国 YASUKUNI」
配給:ナインエンタテインメント
配給協力・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
5月3日(土)より渋谷シネアミューズにて公開、全国順次
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