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『愛の予感』 小林政広監督 単独インタビュー
『愛の予感』 小林政広監督 単独インタビュー
ただの恋愛を自主映画で作っても、おもしろくもなんともないわけですよ
イラクでの邦人人質事件に想を得て撮られた問題作、『バッシング』でタブーに挑んだ小林政広監督。そんな彼が最新作に選んだテーマは、「愛」の「予感」−。14歳の少女が同級生の少女を刺殺する。その事件の加害者の母親と被害者の父親が再び出会ったときに生まれるのは…。第60回ロカルノ国際映画祭でグランプリにあたる金豹賞を受賞した本作で、監督・脚本・主演を務めた小林政広監督に、じっくりお話を伺った。
profile
[小林政広監督]
1954年、東京生まれ。フォーク歌手、シナリオライターとして活動後、96年、初監督作『CLOSING TIME』を製作。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で日本人監督最初のグランプリを獲得。99年『海賊版=BOOTLEG FILM』(ある視点部門)、00年『殺し』(監督週間)、01年『歩く、人』(ある視点部門)と、3年連続カンヌ国際映画祭出品を果たす。第7作『バッシング』は、05年カンヌ映画祭コンペティション部門に公式出品後、東京フィルメックスでは最優秀作品賞、テヘラン・ファジル国際映画祭では審査員特別賞受賞と、高い評価を得た。
『愛の予感』
配給:モンキータウンプロダクション 配給協力:バイオタイド
11月24日(土)より激情のロードショー
オフィシャルサイト
そもそもなぜこの作品を撮ろうと思ったのですか?04年に佐世保で起きた、小学6年生の少女による同級生刺殺事件を想起させる背景がでてきますが、あの事件がきっかけだったのでしょうか?
いや、あの事件ではなく、むしろ北海道のあの場所ですね。今回、主人公の男女が滞在する北上荘は実際にあって、今まで北海道で撮影するたびにいつもお世話になっていたので、いつかあそこを舞台に撮りたいと思っていたんです。ご恩返しというか、あの場所を映画の中に残しておきたいなと、それがまず最初でした。

『バッシング』がカンヌに行った後、あそこを舞台にして何が書けるかをずっと考えていたんですが、なかなか思いつかなかったんです。北海道に一昼夜かけて車を走らせている間に思いつきました。だからあの事件自体を描きたかったというわけではないんです。あの事件からだったら物語が始まるかもしれない、というきっかけにはなりましたが。
小林監督の作品の殆どは北海道が舞台ですが、北海道出身というわけではないのに、なぜそこまでこだわっていらっしゃるんですか?
2本目の『海賊版=BOOTLEG FILM』(98)で初めて北海道で撮影したんですが、僕のそれまでの北海道のイメージは、それこそ「北の国から」のような感じだったんですが、行った場所が、雪景色の三浦半島みたいな(笑)、海からすぐ絶壁が切り立っているような所で、わざわざ北海道まで来たのにこんな風景しか撮れないのか、って思ったのを覚えています。

ただやっぱりそこでお世話になった人とか、色んな人に出会うわけじゃないですか。そうすると、そこでまた作ろうかなと思うようになる。役者も同じように思ってくれたようで、00年の『殺し』に出演した緒形(拳)さんも、「もう1本増毛(ましけ)で撮ろう」って言ってくれて、それが『歩く、人』(01)になったり…。なのでまあ、いつもなんか成り行きというか、場所や、そこで生活している人が割と先にあって、その後に企画を思いつく。だから逆に、「こういうテーマで作ろう」と思ったことはあんまりないんですよ。あんまりっていうか、殆どない(笑)。


――ちなみに今回の作品は、構想を思いついてからどれくらいで出来上がったんですか?

北海道へ向う車の中で考えたんで、そこで一日。着いてその夜から本を書き始めて、一日半で書き終えて、その段階で、まあこれでいけるんじゃないかという感覚はありました。ただ細かい部分は何にも書いていなかったので、これだけだったら役者は分からないだろうなと思っていたんですけど、ある役者に読ませたんですよ。そしたら、「こんなんでも通用するんですね。やりましょう!」って言ってくれて、彼主演でやることになったんです。でも彼がどんどん売れるようになって、最終的にスケジュールが難しくなってしまい、それで僕が出演したんですけどね。結局一年くらい寝かしたことになりますね。
 
相手役を務めた渡辺真起子さんはどのような経緯で起用に至ったのですか?
彼女は『気仙沼伝説』という作品に、まだ未公開なんですけど、出てくれたんです。その時、「面白いやつだな」と思って…それだけですね(笑)。

まあ自分が急遽主人公を演じることになり、相手役が全く知らない方では難しいし、向こうからも断わられそうだ…と色んな理由がありまして、役に一番合っていて、なおかつ安心して頼める女優さんが彼女だったんです。
『愛の予感』 小林政広監督 単独インタビュー
渡辺さん演じる女の仕草のひとつひとつ、例えば最初の頃は前屈みに歩いていたり、髪の毛がかかって顔が見えなかったり、そういう細かい部分も監督が演出をつけたんですか?
ええ。それが監督の仕事ですから。動きなり仕草なり、人物のキャラクターを作るのが監督のいわゆる“演出”という仕事だと思うんですよ。役者に芝居をつけるには、監督の中で登場人物のキャラクターが立体的にイメージできてないといけない。緒形さんもそうでしたが、ある程度の役者さんはどんどん言ってきますからね。「お前は何をやりたいの?言ってくれなきゃ俺は何にもやんないよ」って。だから自分の中でしっかりしたものが作られていないといけないんです。

もちろん、役者が出してくる案が面白くてそっちにしよう、となることもあります。でもどちらにしても、監督の中でしっかりしたイメージがあってこそ、良い悪いが判断できるんです。
なぜ監督は、加害者の親と被害者の親の間に愛を予感させたんだろうとずっと考えていたんですが、お聞きしても構いませんか?
ただの恋愛を自主映画で撮っても、面白くもなんともないわけですよ。前から恋愛ものは撮りたかったんです。でも普通の恋愛ものと差をつけたかった。そこで、溝口健二の『近松物語』のような、強い情念の話を撮りたいと思いました。あれはいわゆる道行きの話で、しちゃいけないことをしてしまった二人が道行で結ばれる…まあ最後は殺されてしまいますが、そのように何かしらのタブーが二人の間にないと、強いパッションが表現できないと思うんです。

そのパッションを表に出す出さないは別としてね。そこで、ひとつの事件における被害者の親と加害者の親が恋に落ちたら、タブーが生まれるなと。現代のタブーを乗り越える恋愛を描きたかったんですよね。それには、あの時点ではああいう設定しか思い浮かばなかった。やっぱり禁じられた愛は力強いものがあると思うんです。
台本には激しいラブシーンがあったそうですが、作品の中では削られたんですか?
いや、元々撮ってないです。あれは役者の覚悟を知るためにわざと書いたというか…(笑)。役者って、大したシーンじゃなくても、本に書いてあるとけっこうびっくりしちゃうものなんですよ。例えば台本に、「民宿のおもてで二人が互いを求め合っている。」なんて場面説明が書いてあると、それを絵に浮かべて、とんでもないことが起きるんじゃないかとびっくりしちゃう(笑)。それで本人やマネージャーが断ってくる場合もあります。だからこっちは敢えて書いて試しているわけです(笑)。それくらいの覚悟がないとできないよ、と。
 
ちょっと細かい話になるんですが、二人の間の重要なアイテムとして携帯電話が出てきますが、なぜ携帯電話だったのかをお聞きしたくて…。というのも、個人的に、携帯が一番似合わない二人だと思ったんです。過去を捨てるために北の外れの寂れた町まで来た人間にとって、最も興味のないものが携帯なんじゃないかと。そんな二人が、例えば手紙ではなく、なぜ携帯を手にしたのか不思議だったのですが…。
台本の段階では、具体的に携帯とは書いてなかったんです。男は女を好いているから、彼女のためになにか物を買い、プレゼントする。だからなんでも良かったんですよ。飴でもなんでもね。最初は何を買って、何を贈って、何をつっ返されたのか、敢えてはっきりさせないことも考えていました。描きたかったのは、お互いの心のすれ違いです。それを際立たせるのに、物が何なのかと言うことは、むしろ余分だと思ったんです。ヒッチコック言うところの、“マクガフィン”ということです。

――あ、それはちょっと感じました。最初の内は、何をコンビニで買ったのかよく見えなかったので。

日本のコンビニでプリペイド携帯が売られてることは、日本にいる人ならまだ知っていますが、外国ではそういう習慣がないし、大体コンビニ自体がないので、二人が何を買ったのかもっと分かりづらかったと思います。実際、ハンブルグのフィルム・フェスティバルで上映された時も、終わって現地のインタビューを受けた際、「あの男は店で何を買ったんだ」って聞かれました。でも「すごく良かった」って言うんです。「何を買ったか分からないけど、すごく良かった」って(笑)。

だから、何を買ったか完全に分からないまま通した方が、逆にもっと単純で分かりやすかったかなとも思いますね。映画の神様、ミスター・ヒッチコックの言いつけどおりにね。ただ携帯にしようと思ったのは、とにかく一言も喋らない二人が、携帯電話だったらコミュニケーションを図りたいという気持ちが表現できるかなと思ったんです。それで具体的に携帯にしようと決めたんですけどね。
正直、今でもなぜあの二人が魅かれあったのかが理解できないんです。それで先ほども、「どうして二人に愛を予感させたのか」とお聞きしたんですが、男は、全てを捨てて流れ着いた先に女がいるのに気づいたとき、なぜ復讐するなり、また違う地へ行くなりせず、そのままい続けたのか。そこら辺の心理が、私には想像の域を超えてしまったのですが…。
それは、あの映画では男が女を好いた瞬間を描いていないからでしょう。

魅かれたのにはもちろん何かきっかけがあったんでしょうが、好きになる瞬間なんて説明できないでしょう。人が人を好きになるのに理由なんてないんじゃないかな。映画だけでなく実際もね。この映画で、例えば好きになるきっかけを作ったとします。するとそこだけが作為的になってしまう。映画的なリアルを追求した映画ですからね。この映画にはふさわしくない表現なのです。

だから、最初彼を拒否していた彼女が、いつ彼に惹かれたのかも分からない。ただ二人の中で心理的な変化や駆け引きが色々起こっていたんじゃないかと思い、それを僕なりのやり方で、一日一日作っていったんですが、まあ僕の考えを言っても始まらなくて、観る人がそれぞれ感じてくれれば良いと思っています。


――渡辺さんからは、女の心理の動きについて質問はなかったんですか?

あまりなかったですね。彼女は彼女なりに、台本を読んで組み立ててきていました。男を平手打ちするところも、僕の方がやっぱりちょっと不自然かなと思って、「やめようか」って言ったんですよ。そしたら「私には彼女の気持ちがよく分かるからやりたい」って言うんで、じゃあやろうかって(笑)。理屈としてはあれは通らないんだけど、女性の側から見るとなんかあるんだろうね。理屈じゃない感覚的なところが。
最後に次回作の構想、予定などありましたら、伺いたいのですが。
そうですねぇ、多分また自主映画じゃないですかねぇ。 ほんとう言うと、もうできないんじゃないかと思っていたんです、これを作る前は。この作品は、僕としてはすごく勝負作で、とにかく企画自体に惚れていて、すごくリスキーだけど絶対いけるという自信もあったし…。 ただその時と同じ気分になれる企画がひとつできたんでね。まあでもそれはいつでも作れるかな。
編集部の呟き
私はあまり緊張しないほうなんですが、今回は最初ちょっと緊張してしまって、でも監督のゆっくりとした言葉遣いと、タバコの煙(銘柄はゴールデン・バットでした)、あと時折みせる笑顔に、気づけば緊張も消えていました。当初の予定より随分時間を延長して質問に答えてくださってありがとうございました!ちなみに、作品の中で男が毎日食べる卵かけご飯、あれは監督の好物なんだそうです。
(取材・文・写真:星野ロカ)
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