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インタビュー
『血の涙』キム・デスン監督 単独インタビュー
キム・デスン監督
 
人間の貪欲さを描きながら、自分自身はどうなのか、という思いを込めて作りました。
第17回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で見事グランプリに輝いた、キム・デスン監督の『血の涙』。本国では昨年5月に並み居る大作をおさえ、月間興行ランキング第一位を記録した大ヒット作である。前作の、時を超えた男女の純愛を描いた『バンジージャンプする』から一転、ミステリー時代劇に挑戦したキム・デスン監督に話を聞いた。
profile
[キム・デスン監督]
1967年生まれ。チョン・ジヨン監督の『ホワイト・バッジ』の記録係として映画界に入り、その後『娼』『春香伝』で助監督を務める。01年に『バンジージャンプする』で監督デビューを果たし、数々の新人賞に輝く。本作は長編第二作目。
今回の映画はミステリー時代劇ということで、前作の『バンジージャンプする』とはまるで違う題材ですが、今作を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?
特別なきっかけはありません。すでに僕ぐらいの年齢で、独自のカラーをお持ちの監督なら、例えばメロドラマの後、急にミステリーを撮ると意外だ、と言われると思うのですが、私の場合はまだに2作目で、ほとんど新人のようなものですから、今は自分がどういう映画を撮れるかと模索しているところです。だから私自身は、趣向が違う作品になっても特に意識したわけではありません。前作にしても、今作にしてもどういう映画であれ、私が語りたいと思っていたことを撮っているだけです。
キム・デスン監督
キム・デスン監督
Q2
もともと、時代劇というジャンルには興味があったのですか?
今回の映画は、そこまで時代劇というジャンルではないような気がするのですが、ただ、最近の人の物語を過去の舞台に置き換えて作ってみるのも新しくて面白い、と思ったのでこの手法にしました。特に時代劇に興味があったわけでもありません。
Q3
主役のチャ・スンウォンさんをはじめ、チソンさん、パク・ヨンウさんと、今までとは違った役を演じていますが、彼らを起用した理由を教えて下さい。
まず、チャ・スンウォンさんに関しては、シナリオを脚色している時に、彼のほうから興味があると言ってきました。すでに彼は数本コメディ映画にも出ていて、ビックスターになっていたのですが、彼自身もコミカルな役から脱皮したいと思っていたようなので、ちょうど良かったみたいです。僕も、以前彼の映画を見た時に、コメディでしたけど非常に強いカリスマ性を感じたので、信頼がおけると思い、出演してもらいました。ただ、彼の場合は身長が190cm近くあって、時代劇のまげを結って、傘をかぶると2メートルぐらいになってしまうんですね。最初は、こんな昔にこんなに背の高い人がいるのは、ちょっとまずいんじゃないかと思ったのですが、ストーリーを考えてみたら、これは仮想の、実際にはない島を舞台にしていて、事件が起きて外部の人が調査をしに来るという設定で、島民は彼を排除するようなイメージを持っていたので、あんまり島には見られないようなイメージの人のほうが、逆にちょうど良かったんです。
チソンさん、パク・ヨンウさんに関しても、今までのイメージと違う自分を見せたいとおっしゃっていたので、シナリオを送ったら、二人ともぜひやりたいと言ってくれました。
キム・デスン監督
この映画は、人間の内なる貪欲さを非常にリアルに描いていると思いますが、監督自身がこの映画に込められた意味は何ですか?
私は今の世の中というものは、韓国のみならず、新自由主義の風が吹いている時代だと思うんですね。そんな中で、昔と一番変わったことは、以前はお金や資本が優勢だったとしても、それ以上に人間のほうが大事なんだという考え方が厳然としてあったと思いますが、今の時代はそれがなくなってきた気がするんです。人よりもお金を大事にする、言ってみればちょっと恥知らずな状況になってきていて、昔はその貪欲さを抑える何かがあったと思うのですが、今はそれができなくなってきているのが非常に残念に思ったのです。で、そんな矢先にこのシナリオを頂きました。5日間で5人が連続殺人事件に巻き込まれて死ぬという推理もので、最初はいくら映画でも、面白さを誘発するために5人も殺していいものか、もっとメッセージとか哲学がなくてもいいのか、と思ったのですが、物語が進むにつれて、人間の貪欲さというものがこの映画に加われば、いい映画になるのではないかと思いました。人間の貪欲さを描きながらも、自分自身はどうなのか、という思いを込めて作りました。
Q4
チャ・スンウォンさんが言った「わずかなお金で人を殺し、またその殺した罪から逃れるためにまたあえて人を殺すのか」というような台詞が印象的でしたが、個人的に気に入っている台詞、または映画を象徴したような台詞はありますか?
主人公は父親から正しい教育を受けてきて、ま、正しい教育といっても、支配階級のイデオロギーなんですが、そういう教育を受けたのだから、自分のことを賢明な人物だと思って島に行くんですね。ところが、自分自身も島の人と変わらない貪欲さを持っていたということ、そして自分もイデオロギーというものに縛られてきたということに気づくようになります。そうした状況の中で印象深い台詞に、父親が彼に向かって「民心は非常に危険なものだ。時期を間違えると、民心が乱れてしまう。人の心が乱れると刀でもどうすることも出来ない」というところがあります。これは当時の支配者のイデオロギーですけど、現在に目を向けて見ると、今の世の中の権力者と変わらないことを言っている気がします。そういった意味で印象に残っていますね。
Q5
ラストの“血の雨”のシーンがかなり印象的だったのですが、それぞれ見ている人で解釈が違ってくると思います。そこに込められた意味を教えて下さい。
以前、こんなことがありました。夜お酒を飲んで、1階からエレベーターに乗ろうとしたんです。私は15階に住んでいるから、ボタンを押して待っていたのですが、上からエレベーターが降りてきて、全部の階に一階ずつ止まるんですよ。こっちとしては酔っているし、ちょっと腹も立ったのですが、それは牛乳配達のおばさんで、一階ごとに牛乳を届けては降りていっていたんですね。それを見た時に、自分は少し前まではおばさんより社会的に地位は上だって思っていたけれど、おばさんのそういう行動に気づいたときに、自分は果たして良心的に生きているのだろうか、と反省しました。 最後の血の雨のシーンも、あれは血の雨であっても、純粋な子供が見たら、血の雨じゃなくて透明な雨に見えたはずです。ところが貪欲な人とか、復讐しようと誰かを恨んでいる人とか、自分の利益のために誰かを裏切ったする人、そして最後に事実を告げようかと悩んでいた主人公の目にさえも、血の雨に映ったんじゃないかと思います。お金だったり資本だったり、階級だったりと、そちらだけに捉われている人にとっては、すべて血の雨に見えたんじゃないかと思いますね。
Q7
最後に、現在韓国映画界を揺るがせているスクリーン・クォーター制度について、ご意見をお聞かせください。
この問題は、フライ級とヘビー級の選手を一つのリングに上げて対決させようとするようなものです。そうなったら、フライ級の選手は当然生き残れないわけで、平等に戦わせるには、ヘビー級の選手にハンデキャップをあげないといけないんですね。つまり、今韓国映画がいくら良い状態といっても、ハリウッドの勢いに比べると、まだまだ子供みたいな存在ですので、今は正当な対決が出来ない状態なんです。ハリウッドは確かに良い作品が多いのですが、全世界がハリウッドになってはいけないと思います。それぞれの国には固有の文化があるわけで、色々な花の種を蒔いて色々な花が咲くように、小さなタンポポもあれば大きなひまわりもあってほしいですし、多様な花があって然るべきだと思いますので、その文化の多様性を守るためにもこういう運動はしなければと思っています。
編集部の呟き
ゆうばり映画祭は初参加ということで、クロージングに上映される『プロデューサーズ』と、『血の涙』と同じコンペ部門に出品されている、韓国のナム・ギウン監督の『三差路ムスタング少年の最後』を非常に楽しみにしていたというキム・デスン監督(なんでも、ナム・デウン監督の映画は韓国でもなかなか見ることが出来ないらしい)。
文中でも述べたように、前作から180度違った題材を選んだデスン監督だが、正直まだ2作目とは思えないほど、斬新でエッジの効いた映像や、韓国版『セブン』のような、背筋をも凍る演出など、ベテランさながらの完成度の高さを見せつけた、実に才能豊かな監督である。穏やかに話す傍ら、随所に感じるしっかりとしたビジョンや洞察力に、今後の韓国映画界を背負って立つような存在になることを確信した。
(取材・文:あいあい)
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