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インタビュー
『エクステ』大杉漣インタビュー
大杉漣
園子温監督の持っている体温みたいなものがすごく面白くて、ついついやっちゃったって感じですね(笑)。
圧倒的な世界観と映像で知られる園子温監督の新作ホラー『エクステ』が、いよいよ公開される。本作で、エクステ(=つけ毛)を売り歩く怪しい髪フェチ男・山崎ぐんじを演じた大杉漣さんにたっぷりお話を伺った。
profile
[大杉 漣]
1951年徳島県出身。74年〜88年解散まで転形劇場に所属。『ソナチネ』(93/北野武)で一気に注目を集める。『ポストマン・ブルース』(98/SABU)でおおさか映画祭助演男優賞、『犬、走る DOG RACE』(98/崔洋一)、『HANA−BI』(99/北野武)等の演技でキネマ旬報、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞など数々の助演男優賞を受賞。その後も数々の映画に出演し、近年では『LOFT』(06/黒沢清)『アンフェア the movie』(07/小林義則)が公開。名実ともに日本映画を支える存在である。
『エクステ』
2007年2月17日(土)より池袋シネマサンシャイン他にて全国ロードショー
配給:東映
オフィシャルサイト:http://www.exte-movie.jp/
まずは、完成した作品をご覧になった感想をお聞かせください。
もう、やっちゃったな〜って感じですね(笑)。チラシには“怪演”って書いてあるんですけど、自分ではそんな意識はなかったんですよ。でも、園子温監督の持っている体温みたいなものがすごく面白くて、ついついやっちゃったって感じですね(笑)。
大杉漣
本作への出演を決めた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
台本を読んだときのインパクトと、実際に園さんにお会いしたときのインパクトが、3倍、4倍強い印象があったので、この人がこの作品を撮ったらどうなるんだろうという興味が湧いたんですね。

Q.園子温監督の印象は?

園さんは面白い人なんですよ。第一印象は、「なんだ、コイツは」って感じで非常に悪かったんですけど(笑)。最初に日活の衣裳部屋で打ち合わせをしたときに、1枚のCDを渡されたんですけど、それに例のイヤ〜な曲が入ってたんですね(笑)。それもエレクトーンをバックに(笑)。これがとてもイヤな印象でして。エレクトーンの伴奏って、妙に寂しくて薄っぺらい世界観があるじゃないですか。そこに園子温の声で、「ヘア〜ヘア〜♪」って入ってるわけですよ。それが、なんていうか、襞まで入ってきちゃったというか(笑)。僕の細胞の中までこの曲が入ってきちゃった感じで、その印象がとても強いですね。
山崎というキャラクターを演じる上で、どのような役作りをしたのですか?
山崎ぐんじというキャラクターは、監督と色んなことを話しながらできていったんです。僕らの作業は、シナリオの中の人物が生身の身体を通してどう表現されるのかということだと思うんですね。ああでもないこうでもないと言いながら創り上げていく過程が楽しいので、一人で創り上げたものではないですね。 今回は、結果的に最初に僕が考えていた以上のものになったと思います。僕も“小さなやる気”というか、頑張ろうとは思ってましたけど、そこに思い切り油を注いでくれたのが監督だったような気がしますね。だから、あんな風になっちゃったというか(笑)。

Q.衣装もかなりインパクトがありましたね。

僕は今までに映画は何百本もやってきましたけど、衣装でオーバーオールを着たことって1回もないんですね。作業着みたいなものはあるんですけど、いわゆるブルージーンズの絵に描いたようなオーバーオールはなくて。今回は帽子も自分で買いにいったんですよね。

Q.お店の方に気付かれたりしませんでした?

帽子屋さんは何軒も回ったんですけど、見てると面白くて、結局3つ購入して、監督に見せて決めてもらいました。めがねも2種類使ってるんですよ。監督と色々お話して、そういう小物を買いに行ったりするところから、僕にとってはもう映画づくりは始まっているんですね。普通のサラリーマンを演じるときの役作りとは違って、今回はエキセントリックに行こうと思いました。山崎像を作る過程がとても面白かったですね。
大杉漣
一番最初に現場で山崎に入り込む瞬間は、多少の抵抗があったりしませんでしたか?
一番最初に撮影したのは、山崎が子供に声をかけるシーンだったんです。街の中で撮ったんですけど、あの格好で普通に動いている自分が、僕は逆に楽しかったですよ。恥ずかしさというより、楽しくて。オーバーオールで、帽子被って、星条旗のTシャツ着て(笑)。意外と人って見ないもんですよね。あの格好でコンビニ入ったりしていましたね。

Q.私だったら見てしまうと思いますが。

見ちゃいけないって感じで見ちゃうんですよね(笑)。僕は決して心地悪くなかったですよ。というか、心地良かったです。なんか、“街に異物”って感じでしたね(笑)。でもその異物感は僕にとっては必要だったんですよ。山崎というのは、ある意味、世の中とうまく交われなくて、言葉では言い表せない不器用さを持ってる人だと思うんですね。きっと生き生きする場所が人とは違うんですよね。

Q.最初は“心地いい”だったのが、だんだん“快感”になっていったのには、何があったんでしょう?

それは園監督のせいじゃないかな。さっきも言いましたけど、最初はとても感じの悪い人だったんですよ。でも、第一印象が悪くても、付き合っていくうちに味が出てくる人っているじゃないですか。園さんはそういうタイプでした。だから、もっと監督のことを知りたくなるんですよね。園監督は、機嫌がいいときと悪いときが、ものすごくはっきりしてるんです。ある意味わかりやすい。自分がどういうテンションを保てるかを探っているんじゃないかと思うんですけど、僕もそういうところがあるんですね。現場ですごく饒舌なときもあれば、全く喋らないこともありますし。自分の居場所というか、精神の居場所を探っているのを、園監督にも感じたんですよね。あの歌と同じで、監督もまとわりついてしまったんです。監督は山崎をどのように演じていこうかということについても真剣勝負で向き合ってくれました。だから、山崎は園子温と大杉漣が向き合って創っていったという印象が強いですね。

Q.アドリブも多かったのでしょうか?

その場で生まれたものという意味でいうと、アドリブに近いものはかなりありますね。ものづくりのライブ感みたいなものなんですけど、現場で起きたことや感じたことはかなり採用されてます。そこが、ものづくりの醍醐味というか、面白さですよね。園さんはそういうことに対して拒否反応を示すタイプじゃなくて、むしろそれを受け入れて、「僕ならこう思うよ」ということをきちんと言ってくれる監督だったんで、やりがいもあったし、とてもやりやすかったですね。まあちょっと調子に乗って、“大杉”が“やり過ぎ”になった部分もあるんですけど(笑)。

Q.やり過ぎて止められたこともあったんですか?

ありましたね(笑)。限度がわからないんですよね。
大量の髪の毛に囲まれた撮影はいかがでしたか?
楽しかったですよ! 色んな映画のセットを見てきましたけど、髪の毛のみのセットなんて見たことないですし。目の上に髪の毛つけてセットの中を歩いてたんですよ、僕。そんなこと、一生のうちに何度も経験できることじゃないでしょう。舌に髪の毛が生えて伸びるシーンがあるんですけど、特殊メイクの方に「おもちゃじゃない」って怒られましたけど、僕にとってはおもちゃなんですよね(笑)。楽しくてしょうがなかったですね。 撮影のあった1ヵ月、僕は山崎でしたね。家に帰って風呂に入っているとき、思わず口ずさんでるんですよ。「ヘア〜ヘア〜♪」って……(笑)。悲しいですよ(笑)。スタッフの皆んも、現場で撮影が進むにつれて、あのメロディを口ずさんだり、鼻歌を歌ったりしてましたね。あの曲がまとわりついてたんでしょうね。もっと驚いたのは僕のカミさんですけど、お茶碗を洗いながら口ずさんでたんですよ! 楽しそうでしたけどね。こういう歌い方もあるんだって感じで(笑)。そのくらいインパクトの強い曲でした。

Q.一番楽しんで撮影されたシーンは?

一番楽しかったのは、やっぱり山崎と優子が対峙する最後のシーンですかね。あのシーンは、撮影に何日もかかったんですよね。東映の撮影所で、毎日髪に囲まれて。「55歳にもなって何やってるんだろう?」と思った瞬間もありましたけど(笑)、これでいいんだと思いながら頑張ったって感じかな。あのシーンは台詞も長かったですし、自分で付け加えたところもあったんですけど、やってもやっても終わらないんですよね。何度も色んな角度から撮って……愚痴じゃないですよ(笑)。事実を言ってるんです。やっと終わったときは、ちょっと高い山をのぼった印象だったかな。それは僕だけじゃなくて、監督もそうだったと思います。だからすごく印象に残っていますね。
山崎は極度の“髪フェチ”ですが、大杉さんは何フェチですか?
(笑)。まあ、僕は普通の感覚で生活していますし、今回の映画に出てつくづくノーマルが一番いいなって思いましたね(笑)。そういうフェチ感というのは僕には欠落しているのかもしれないですね。
強いて言えば“性格フェチ”っていうのはあるかもしれないです。人に対しての好き嫌いは結構あると思う。あと、こだわりからいうと、やっぱり自分の趣味ですよね。サッカーにはすごくこだわりがあって……って、これ話し始めるとすごく長いですよ(笑)。40年、アマチュアでサッカーやってますからね。役者稼業より長いんです。そういう意味では“サッカーフェチ”ですかね?


Q.“性格フェチ”というのは?

こういう仕事をやっていると、どうしても、人を見ることに対する興味の度合いがものすごく高くなるんですね。僕は不器用で役者以外は何もできないですけど、演じるということを生業にしていて、そこに自分のものの見方や生き方を反映させていきたいと思ってるんです。そういう意味で、人への興味は尽きないんですよ。 最終的にはやっぱり性格だと思うんですよね。性格が悪かったり合わなかったりすると、なかなか付き合っていけなかったりしますからね。 ごめん、全然答えになってないよね。でもすごく難しい質問ですよ。何フェチかって、あんまり聞かれたことないからなあ。
共演された栗山千明さんの印象はいかがでしたか?

栗山さんとは、彼女のデビュー映画『死国』でもご一緒しているんですよね。TVドラマでもご一緒させていただいたし、ご縁があるというか。栗山さんご自身も、今回の役は普通の女の子を演じるということでとても努力されたとおっしゃってましたけど、本当に見事だったと思いますね。

Q.逆に、共演者の方々は山崎を演じる大杉さんに対してどのような反応をされていましたか?

あの格好で街を歩いたときに人の目があまり気にならなかったのと同じように、共演者が僕をどう見てるかっていうことはあまり気にしなかったですね。僕は、「変に思われて大いに結構」って思ってた。だって変なんだもん(笑)。変な人を演じるんじゃなくて、結果的に変であればいいんですよね。
あ……でも、今考えると、あんまり話しかけてくれなかったかも(笑)。子役の子も、普段着の僕にはとても明るく話してくれるのに、あの格好になると途端に話してくれなくなって。確かに普段のように共演者の方々と話が弾んだっていうことはなかったかもしれない。逆に、僕、孤独だったかも(笑)。

 

本作に出演したことで、髪に対する考え方は変わりましたか?
変わらないです(笑)。僕自身は髪に対する特別な思いはなかったけど、栗山さんは女優さんの中でも本当に髪のキレイな方なんですよ。栗山千明ファンには申し訳ないですけど、思い切りいたぶらせてもらいました(笑)。

Q.髪を切るのが恐くなりませんでした?

僕はすぐ切りましたよ。髪って“精神性”みたいなものがあると思うんですよね。ある種、生霊というか成り代わりのようなものはあると思うので、僕も普通に恐いですよ。でも、ホラー作品だからって現場も恐いわけでは全くなくて、逆にすごく明るいんですよね。まあ、園子温はおどろおどろしかったかもしれないですけど(笑)。作品の印象と現場の印象は違うかもしれませんね。
大杉さんは非常に出演作品が多い方ですが、ホラー映画に対するやりがいというのはありますか?
特別にホラー映画に対するやりがいというのはないですけど、仕事についていえば、僕はやっぱり現場に立っていたいんですね。例えばサッカーって、ピッチに立てるのは11人なんですけど、その11人の中に入れるかどうかが役者にとって現場に行けるか行けないかということなんです。ベンチにいても仕方がないわけで。 僕は自分のことをまだまだヒヨコだと思ってるんです。何でこんなに不器用なんだって思うし。でも、俳優の世界では不器用でもいいっていうところがあるんですよね。僕は小さな役も主演もやりますし、映画だけでなくテレビやラジオの仕事もやるんですけど、映画をやっているときは映画俳優、テレビをやっているときはテレビ俳優だと思ってるんです。だからホラー映画に出て、確かにホラー的な演技を求められるときもありますけど、少なくとも僕は、いつも11人の中に入っていたいと思ってるだけなんですね。 仕事って“やってる”ものじゃなくて、やっぱり僕は、“やらせてもらってる”ものだと思うんです。まず選んでもらう。で、選ばれた以上、どういう答えを出すかということを仕事の基準にしていかなくちゃいけない。その中で傷つくこともあるだろうし、喜びももちろんある。そういうことをずっと繰り返しているだけなんですよね。 今回についていえば、僕自身は「1ヵ月の間、園組でどういう時間を過ごしたのか?」ということを自分に問いたいんです。一番大事なのは、現場でちゃんとやってきたのかっていうことだと思うんですね。

Q.多くの役を演じられていて、気持ちの切り換えが大変ではありませんか?

僕は普段、ものすごくだらしないんです。だらしないこととか、曖昧であることが好きなんですね。本当にだらしないですよ(笑)。「もっとしっかりしようよ」とかよく言われます。「だらだらするな」って。それは子供の頃からよく言われていて、55歳になっても変わらないわけなんですけど、役者としてはいいことだと思ってるんですよ。僕は、現場に行って衣装つけてメイクしたときにその役であればいいと思うんですね。例えば、ヤクザの役をやるときに、現場に入っていなくてもヤクザみたいな口調になられる方もいらっしゃるけど、僕はそれが絶対にできないんですよね。
映画とは離れますが、大杉さんご自身は、恐怖や不安というものについてどうお考えですか?
ホラー的な怖さではないですけど、不安感とか恐さっていうのは持っていた方がいいと思う。例えば、10年後の自分って考えられます? どうなってるかわからないでしょう? でもね、10年後の自分を楽しみでいることは大事だと思うんですよ。僕、10年後は65歳なんですけど、楽しみにしてるんですよ。それはきっと、漠然とした10年後の自分ではなく、「今どうするんだ、どうしたいんだ」っていうことが問われるんだと思うんです。 僕自身は、恐れや不安感はものすごく強いですよ。でも、それを楽しんでしまえっていうところがあるんですね。そこで踏みとどまったらダメで、「とりあえずでもいいから、一歩進もう」くらいのことでいい気がするのね。踏みとどまることが大事なときもあるんだけど、動きながら考えていた方がいいっていう。それは自分の性分でもあるんでしょうけど。 僕が昔から付き合いのある俳優さんたちは、僕も含めて皆バカだと言われてました。でも、そういう人が残ってるんですよ。映画や演劇にやたら知識の多い人たちは、ほとんど残っていない。続かなかったんですね。彼らが賢いから続かなかったのか、俺がバカだから続いたのか、それはわからないんだけど。 ごめん、すごく漠然としてて。でも、不安感や不満、恐さみたいなものって、僕は絶対持ってた方がいいと思う。だって、安定したものなんて当てにならないよ。例えば、僕は昔よりは金稼ぐようになったけど、正直言って全然そういうの興味ないもん。ただものを作るところにずっと居たいわけですよ。仕事でも、ベテランって言われたりすると、やめてくださいよって言いたい自分がいたりするんです。キャリアの長さじゃないんだよね。その場に自分がどうやって居るかっていうことが問われるんだと思うんですよね。現場でレフ板を逆に当ててるような奴も、その内ちゃんとできるようになるんですよ。僕はそういう人たちとモノを創っていきたいんですよね。そこが僕にとって一番大事なことなんです。 ごめんね、なんか「オーラの泉」に出てるみたいだよ(笑)。取材でもあまりこういう話はしないんですよ(笑)。
編集部の呟き
仕事に対する考え方など、映画から少し離れたお話もしてくださった大杉さん。ご本人もおっしゃっていましたが、取材でそういうお話をするのは珍しいのだそうです。決して熱弁を振るっているわけではないのに、聞き手が自然と引き込まれる語り口、どんな質問に対してもこちらが思う以上のものを返してくださる温かい人柄に、心から魅了されたインタビューでした。 (取材・文・写真:山内真理子)
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