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インタビュー
『いちばんきれいな水』ウスイヒロシ監督インタビュー
ウスイヒロシ監督
(C)2006『いちばんきれいな水』フィルムパートナーズ
僕自身が気持ち良かった原作の持つ空気が、映画に反映しているといいなと思いました。
心は8歳のままで11年間の眠りから覚めた19歳の姉と、小学6年生の妹が過ごした奇蹟のような3日間を描いた『いちばんきれいな水』。コアなファンの多い古屋兎丸の同名短編コミックが原作で、これまで数々の個性的なミュージシャンのプロモーション・ビデオを手がけてきたウスイヒロシが、映画監督初作品として選んだ本作への思いを大いに語ってくれた。
profile
[ウスイヒロシ]
1970年、東京生まれ。映像作家、ミュージック・ビデオ・ディレクターとして、サザンオールスターズ、東京事変、一青窃、大塚愛、椎名林檎、AI、スキマスイッチ、nobodyknows+など個性的なアーティストの映像作品を手がけて注目を集めた、今、最も期待されている映像作家。CMも数多く手がける。本作が初の映画監督作品。
『いちばんきれいな水』
配給:アミューズソフトエンタテインメント+博報堂DYメディアパートナーズ
 10月7日(土)よりユナイテッド・シネマ豊洲、渋谷シネクイント(レイトショー)ほか全国順次公開
オフィシャルサイト:http://www.cplaza.ne.jp/kireina-mizu/
Q1
まず、原作のマンガのどういったところに共感されましたか?
ごく短い作品だったんですけど、そこに流れている空気がとても気持ちいいな、と思いました。

Q.古屋兎丸さんの原作は熱狂的なファンもいるかと思いますが、それを映画化することにプレッシャーは感じませんでしたか?

プレッシャーというか、緊張したのは、初めて兎丸さんとお会いしたときですね。どんな方かなと思っていたんですが、すごく男前な方で、「台本、読みました。楽しくやってください!」とおっしゃって、逆に勇気を与えてくださいました。

Q.オリジナルから変えた部分はありますか?

映画の中でカヒミ・カリィさんが演じている真理子さんは、マンガのほうには存在しないキャラクターなんです。マンガでは両親の描写もほとんどなく、愛ちゃんと夏美ちゃん姉妹だけに焦点を合わせたお話になっています。

Q.映画では、真理子さんはキーになっているキャラクターですよね?

そうですね。シナリオを作っていく段階で、マンガの中にある心地良い行間や空気感を大事にしたいねと、脚本を担当した三浦有為子さんと話し合いました。そのときに、真理子さんというキャラクターをキーにすると、テーマにもしっくり合うだろうということで採用したんですね。兎丸さんも、真理子さんという存在について「いいと思います」と言ってくださったので安心しました。
Q2
真理子さん役にカヒミ・カリィさんを起用した理由をお聞かせください。
キーになるキャラクターでしたので存在感がありつつ、透明感もある方が必要だと思ったんですね。そういうキーワードでキャスティングの方と相談し、「カヒミさんがいいんじゃない?」ということになって、問い合わせてみたという感じです。

Q.“きれいな水”ということで、“透明感”がキーワードになったんですか?

そうですね。“きれいな水”ということもありましたが、作品全体としてファンタジーだと思いましたので、そういう意味合いでの“透明感”ということもありました。べったりした日常というよりは、漂っているようだけど確実に感じる存在、というイメージもあります。

Q.カヒミさんは初めての映画出演とか?

初めてでした。出演していただいて、本当によかったです。カヒミさん自身、写真を撮る方なので、最初に読んでいただいた台本にシンパシーを感じてくださり、真理子さんという役柄についていろいろとディスカッションもしました。ですから、真理子さんというキャラクターはカヒミさんと共に創り上げたといってもいいです。

Q.カヒミさんは以前からのお知り合いだったんですか?

いえ、PVでもお会いしたことがなくて、今回が初めてでした。

Q.カヒミ・カリィさんはミステリアスなイメージがありますが、どんな方でしたか?

真理子さんのキャラクターに割と近い部分があるとおっしゃっていた通り、透明感があるんですけど、確実に存在感もある方でした。撮影初日はカヒミさんのシーンだったんですけど、「お互いに緊張しちゃうよね」って、現場の隅っこで話したりしましたね(笑)。とてもフランクで、素敵な方でした。
Q3
今回主役を務めた加藤ローサさん、妹役の菅野莉央さんを起用された理由、監督から見たお二人の魅力をお聞かせください。
ローサちゃんは何よりも、あの笑顔が素敵だなと思いました。で、雑誌などを見ると“天使の笑顔”と呼ばれているんだと、後から知りまして(笑)。あんな笑顔がありながら、眠り続けている愛ちゃんという役がピッタリだと思いましたね。莉央ちゃんに関しては、夏美役のオーディションがありました。大勢の子供さんに来ていただいたんですけど、莉央ちゃんのクリクリとした目が印象的で、心の奥まで見られているような感じがしたんですね。ですから、決め手はあの眼差しでした。

Q.お二人の現場での様子はいかがでしたか?

だんだん本当の姉妹みたいになっていきましたね。もちろん、本読みの段階を経て撮影に入りましたが、見ていて安心できるくらい、息もどんどん合っていきました。ほぼ順撮りで撮影したんですが、最後の水辺のシーンは、現場で見ていてもグッとくるほど、二人の間の空気がちゃんと出来上がっていましたね。

Q.段取りをあまり決めないで、割と自由に演じてもらっていたそうですね?

ええ。二人の間に親密な空気が流れていましたので、それで全く問題なかったんです。本番前のリハーサルで出てきたアイデアも採り入れたりしましたし。とにかく、楽しんで演じてもらったことが作品の豊かさにつながった気がします。

Q.加藤さんはこの役に決まったとき、“ピンチ!”と思ったそうですね。

それを聞いて僕は、“あ、ピンチだったんだ”と意外でしたね(笑)。それに、記者会見のときには「8歳の役でしたけど、監督から“そのままでいいんじゃない?”と言われました」って、ローサちゃんは話してましたけど、“そんなこと、言ったっけ?”とも思いました(笑)。ローサちゃんはこのキャラクターをすごくよく理解して演じてくれましたよ。最初、台本を渡したとき、自分の小さい頃の話をしてくれたことが印象に残っています。「学校まで遠くて、毎日テクテク歩いていたんです。だから、小さい愛ちゃんと小さい頃の自分は重なる部分があるんですよね」って。その話を聞いてすごく安心しましたし、先ほども言いましたように、あの笑顔がありながら眠り続けているというギャップがいいと思いましたので、“ピンチ!なんて、そんな……”という感じでしたね。

Q.崇役の川上将平くんも印象的でした。

川上くん、ブログをやってるんですよ。彼の場合も“崇くんオーディション”がありまして、そこで出会いました。最初はちょっとカッコつけた感じがあって、“なんだ、こいつ?”みたいなところはありましたね(笑)。でも、お芝居をしてもらったらすごく良くて。崇はちょっと乱暴なタイプの男の子ですけど、川上くんはそうじゃなくて、その無理をしている感じが、夏美ちゃんに対する崇のぎこちなさにつながる気がしていいと思いました。
『いちばんきれいな水』のスピンオフ短編『夏美のなつ〜いちばんきれいな夕日』(動画ポータルサイト「BIGLOBEストリーム」にて9月13日より無料配信中。BIGLOBE会員以外でも視聴可)では、崇くんがけっこうフィーチャーされているんですよ。今回助監督を務めてくれた武正晴さんが撮っていまして、こちらもぜひご覧いただきたいです。
Q4
“いちばんきれいな水”の場所は、監督の中で最初からイメージがあったのですか?
マンガの中でもあの水辺の場所がキーになっていましたから、そのイメージに負けないものにしたいという思いはありました。僕も小さい頃、工事現場に秘密基地を作ったり、土管に入って遊んだりした記憶がありますが、入ってはいけない所に行っていくと、誰にも秘密にしておきたいような場所に出くわすという感じにしたいなと思い、いかにその場所を魅力的に見せられるかというのが一つの課題でもありましたね。どれだけ丁寧にその場所で撮れるかということも考えつつ、かなりあちこちロケ地を探してもらいました。
それと、あの家族が住む家も重要でした。愛ちゃんの病気はとらえようによってはすごく深刻な病気でもありますが、そういう切り口ではなく、僕が描きたかったのは日常のファンタジーとでも呼べるものです。あの一家はどういう風に暮らしているのかなと考えたとき、愛ちゃんが赤ちゃんみたいに存在している家族なんじゃないかと思ったんですね。誰からも目が届く場所で愛ちゃんが眠っているような家です。そういうイメージで探して、とても素敵な場所を見つけることができました。
ウスイヒロシ監督
Q5
一番気に入っているシーンと見どころだと思っていらっしゃるシーンは?
水辺のシーンはぜひ見ていただきたいですし、全編に流れている空気を楽しんでいただければいいなと思っています。

Q.水深5メートルでの撮影はいかがでしたか?

水中カメラの方にボンベを付けて入っていただき、ちょうど立松和平さんが某番組でやっていらっしゃったみたいに、「次のアングルは……スーハーゴボゴボ」なんて(笑)、マイクでやりとりしました。撮影スタジオではありませんので、当然ながら、照明などにも苦労しましたし、いかに美しく見せられるか試行錯誤しました。上半身裸で海パン姿の男たちが、照明を当てていたり足場を組んだりして(笑)。あんなに優雅に泳いでいるシーンの外側では、こんな具合に奮闘している状況でしたね。

Q.それでは、一番苦労されたシーンは?

やっぱり、水辺のシーンです。ローサちゃんと莉央ちゃんが泳ぎながら演技をしなければいけないところでしたし、撮影の環境としても力が入る部分ではありました。苦労したというよりは、力を入れたという感じでしたね。

Q.お二人は、泳ぐこと自体は問題なかったのですか?

そうですね。洋服を着て泳ぐことはなかなかありませんから、かなり練習しましたし、個人差はありつつも(笑)、よく頑張ってくれたと思います。実際、洋服を着たまま泳ぐのは大変ですから、スタイリストの杉山まゆみさんがプロダクションの早い段階から参加してくださって、自ら衣装を着て泳いでみては作り直されたりしていましたね。泳ぎやすいということを前提に、ひらひら感をどう出すかとか、透けているものを重ねることでどう美しく見せるかなど、すごく考えてくださいました。
Q6
映画を撮られるのは初めてということですが、映画の現場で新鮮だったこと、発見されたことはありましたか?
まず、台詞のしっかりあるお芝居を撮るということ自体初めてでしたので、役者さんの力って大きいんだなと実感できましたね。またスタッフ側も、台本に描かれている感情をいかに映像で表現するかということに対して、みんなが一丸となってものすごいパワーを注いでいるのを見て、新鮮な気持ちがしました。ただ、よく考えてみると、プロモーション・ビデオ(PV)も、歌っているときの感情を撮っているわけですから、結果としては一緒なのかもしれないとも思いましたね。
あと、PVは1〜2日で撮ることが多いんですけど、映画は長い時間をかけて作っていきますよね? だから、二人がどんどん姉妹に見えていったように、現場のチームワークもどんどん良くなっていったんですよ。ワールド・ベースボール・クラシックでイチローさんが「チームがどんどん固まっていった」と言った気持ちが本当によくわかったくらい(笑)、チームワークのすごさを実感しましたし、一つの映画をみんなで創り上げていくパワーの大きさには感動しました。
Q7
今作では、ウスイ監督らしく、音楽にもこだわりがありますね。
そうですね。撮影が始まる前に、いろいろなCDから自分が好きな曲を集めて“なんちゃってサントラ”を作ってみたんですよ。その中にはカヒミさんの曲も入れていました。でも、それをそのまま使うわけにもいきませんので、大好きなショーロクラブの沢田穣治さんに音楽をお願いしました。
で、沢田さんと話しているうちに、ブラジル音楽がテーマになっていったんですね。愛ちゃんが目覚める前の日々の描写のところで流れているのは、ジョイスさんの曲です。それから、夏美ちゃんが朝の支度をしながらナレーションをしているところは、アン・サリーさんの曲を入れました。お医者さんでありながらボサノバ・シンガーとしても活動されている方です。夏美ちゃん役のオーディションでナレーションを読んでもらったときに流していて、“なんちゃってサントラ”にも入れていたのが、映画『男と女』の「ダバダバダ、ダバダバダ」という曲でしたので、それのブラジル・テイストということで、アン・サリーさんの曲を使わせていただいたんです。
あと、劇中ではあまり前面に出ていませんが、ファミレスの中で流れている曲がありまして、それが比屋定篤子さんの歌なんですけど、すごくいいんですよ。サントラには入っていますので、ぜひ聴いてください(笑)!すっごく贅沢な使い方をしています。主題歌を担当しているAMADORIさんに関しては、ブラジル音楽的なアプローチではなく、あくまでAMADORIさんらしくやっていただきました。

Q.ちなみに、“なんちゃってサントラ”には何が入っていたのですか?

ジョイスさんは入っていました。あと、ガル・コスタというブラジルのシンガー、カヒミさん、『男と女』のテーマ、映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』のトム・ウェイツの曲、映画『パピヨンの贈りもの』の中の曲などを入れていましたね。とにかく、台本を読みながら勝手に“こんな感じじゃないかな?”と思った曲を選びました。PVでは大体の場合、絵コンテを描くんですけど、今回は書かないで、現場で動きを見ながらカット割をしていったんですよ。それも初挑戦ですごく面白かったんですけど、自分の中では絵コンテの代わりに音楽をつけてイメージしようと思ったんですね。いつもと同じ状況にもっていくために“なんちゃってサントラ”を作ってみたんです。
Q8
絵コンテを描かなかったということですが、アドリブが多かったそうですね。
ええ。本読みのときに流れはみんなで決めていきましたが、ロケ地に行って感じたことや、現場でみんなが成長していく中で生まれてきた感情もありましたから、その流れで本番直前のリハーサルをしたときに出てきたアドリブは採用したりしました。そういうやり方は新鮮な喜びでしたね。絵コンテを描かなかったことで逆に、今回は豊かになったという印象があります。

Q.ミュージック・ビデオ(MV)をやっていた経験が役に立った点と、この映画だからこそ自分らしさが出せたなというところはありましたか?

まず、原作のマンガを読ませてもらったときに、その空気感が自分の中で腑に落ちたというか、“やりたい”と思えたんです。MVは台詞がないですし、感じてもらうものですから、そういった感性の部分ではこの映画に合っていたかなと思います。
自分らしさが出せたかというご質問に関しては、そもそも自分がよくわからないものですから、何とも……(笑)。少なくとも、生き生きとした映像になったのは嬉しいですね。現場の空気が伝わっていると思います。

Q.PVにしろ映画にしろ、映像でこだわっていることはありますか?

それが、あんまりないんですよね(笑)。自分の中で火種がメラメラしているタイプではなく、出会いがあり、コミュニケーションがあって何かが生まれるということが多いので。
Q9
アニメーションがすごく可愛かったですが、思い入れがあったのでしょうか。
あれはぜひ、やりたかったんですよね。『ガープの世界』という映画がありますけど、実写がアニメーションに変わっていくシーンがあって、あの感じがとても好きでしたので。吹き替えも二人に来てもらって、いろいろなパターンで録ったんですよ。最初はピングーみたいに「○×☆▲□&?」なんて(笑)、言葉にならない台詞で遊んでみたり、楽しくアフレコしました。
Q10
今作は、女の子の気持ちに寄り添った“女の子ワールド”で、監督は女の子の想いをうまく汲み取れる方だと感じました。
じつは僕、乙女座なんです(笑)。ただ、僕自身はそんなに女の子の気持ちについて考えたつもりはないんですよ。原作のもつ空気もありますし、脚本が女性の方だったことも大きかったかもしれません。“女の子”ということ自体はそれほど意識せずに、ちょっと忘れてしまっていたけど大切な思い出というものがこの映画の根底にはあると思いましたので、それを描けたらなという意識はありました。

Q.確かに、これを観たらみんな、自分たちが経験した夏のある時間を思い出すかもしれませんね。

夏がめちゃくちゃ楽しかった子供時代の記憶って、ありますよね? それが大人になるとなくなったりして……。ただ、ちょっとだけ見方を変えれば、小さなことも楽しめると思うんです。例えば、花火を見るときって、大人でも子供でも同じような気持ちになれるんじゃないでしょうか。夜、街中で空を見上げたとき、偶然花火を見てしまったなんて、不意を突かれる喜びがありますよね。
Q11
この映画を通して、どんなことを伝えようと思いましたか?
そんなにテーマを意識して撮っていたわけではないんです。ただ、撮る前に思っていたのは、マンガを読んで自分が気持ち良かった空気が映画に反映されるといいな、ということでしたね。不思議なんですけど、撮影が終わった後で友達と会ったら、「なんか無邪気になったね。自己啓発セミナーでも行ったの(笑)?」って言われたんですよ。でも確かに、この撮影を経験して心がピュアーになった感じはあって、それは全く思いがけないことでした。そういう空気が自然と生まれた作品なんだなと思いましたね。

Q.“いちばんきれいな水”という言葉からイメージするものは?

いろいろなとらえ方があると思います。場所についてイメージするかもしれませんし、夏の汗であってもいいですし。劇中、「泣いてもいいんだよ」と真理子さんが言う台詞があるんですよ。それについてAMADORIさんと、「泣くからこそポジティブになれる、そんな涙もあるよね。それも“いちばんきれいな水”というところにつながるね」と話したことがありまして、そのイメージは気に入っていますね。
編集部の呟き
とにかく、この透明感あふれるハートフルな映画を監督するにはピッタリの、優しく柔らかな雰囲気をもった方だった。でも、一番好きな映画はなんと、『少林サッカー』なのだとか。チャウ・シンチーの大ファンで、『カンフーハッスル』の日本語版主題歌を歌ったnobodyknows+のPVに出演してもらい、『少林サッカー』のDVDやTシャツにサインをしてもらったと、少年のように目をキラキラして語ってくれたのが、何とも微笑ましかった。
(取材・文・写真:松浦真居)
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