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| 屋上で雨ざらしになっているくしゃくしゃの気球を眺めていたら、それが“終わってしまった夢”のように見えた。 |
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| “大切な何かを失って、僕らは再び歩き始めた——”。
荒井由実の名曲「翳りゆく部屋」をモチーフに、鬼才・園子温監督がメガホンをとった青春群像劇『気球クラブ、その後』。『紀子の食卓』『奇妙なサーカス』など近年の作品イメージとはまったく異なる一作を完成させた園監督に話を聞いた。 |
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[園子温監督]
愛知県生まれ。17歳で詩人デビュー。「ユリイカ」「現代詩手帖」に続々と詩が掲載され“ジーパンをはいた朔太郎”と称される。1987年、『男の花道』でぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞。『自転車吐息』は、ベルリン映画祭正式招待のほか、30を越える映画祭で上映。ヨーロッパ、アジアで好評を博した。映画制作を続ける一方、街頭詩パフォーマンス「東京ガガガ」を主宰。4000人のパフォーマーを集め、渋谷のストリートで一大ムーブメントを起こす。01年、『自殺サークル』で、新宿武蔵野館の劇場レイトショー記録を更新。05年公開の『奇妙なサーカス』では、第56回ベルリン国際映画祭でベルリナーレリーダーズ賞を受賞、カナダのファンタジア映画祭’06でも作品賞と主演女優賞を受賞。『紀子の食卓』では、第40回カルロヴィヴァリ映画祭の“特別賞賛賞”、国際シネマクラブ連盟(FICC)による“ドン・キホーテ賞”、第10回プチョン国際ファンタスティック映画祭観客賞と主演女優賞のダブル受賞を果たし、国際評価をより高めた。今後の待機作に、栗山千明主演のホラー映画『エクステ』(07年2月公開予定)がある。 |
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『気球クラブ、その後』
配給:エム・エフボックス
12月23日(土)より渋谷シネ・アミューズにてレイトショー ほか、全国順次公開
オフィシャルサイト
http://www.kikyuclub.com/ |
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| この映画を撮ろうと思ったきっかけをお聞かせください。 |
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実は20年くらい前に気球を衝動買いしたことがあって……といっても膨らむところだけで、カゴや噴射する火までは購入しないままだったんですけど。なぜかというと、光を中に入れて遠隔操作で東京タワーまで飛ばしたら皆UFOと間違えてびっくりするかなーと思って(笑)。そういうイタズラをしようと思って衝動買いしたんだけど、なかなか飛ばす機会がなかったんですよ。今回の映画にも出してるんですけど。あの黄色い方です。
Q:“気球BAR”の方ですね。
そうです。あれ、僕の持ち物なんです(笑)。あの中にこたつを入れて、井の頭公園で“気球カフェ”とかやってた時期もあったんですけど、結局飛ばしたことは一度もないままで。あれ、しぼむとくっちゃくちゃになって見苦しいんですけど、それが引っ越すたびに、ベランダだの屋上だので雨ざらしになってる状態だったんですよ。で、大塚に住んでいた頃、「これずっとあるなー」と思いながら、くしゃくしゃの気球を屋上で一人佇んで眺めていたら、はたとこれは青春映画になるんじゃないかと思った。気球を比喩として夢に置き換えれば、くしゃくしゃの気球は、青春の曲がり角に来て“終わってしまった夢”みたいだなーと思って。そこからこの映画のストーリーを発想したんです。
なおかつ、今まで一度も飛ばしたことがなかったので、これで“弔い”というか“合掌!”って感じで、やっと捨てられたんで、よかったよかったと(笑)。
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| 「翳りゆく部屋」をモチーフにされたのはどういう理由だったのでしょうか。
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| ユーミンのあの曲だけすごく好きで、シナリオを書いている最中にもうあの感じは浮かんでいたんです。僕の“歌謡曲三部作”って言ってるんですけどね。一作目が『夢の中へ』、二作目が「時効警察」第六話の「もしも明日が」で、今回が三本目なんで。あ、でも『紀子の食卓』の「バラが咲いた」もあったね。
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| 主演の深水元基さんと川村ゆきえさんを起用された理由をお聞かせください。 |
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深水君はやっぱり『HAZARD』つながりで、いつか一緒にやりたいなと思ってたんです。
Q:『HAZARD』の撮影から4年ぶりでしたが、現場ではいかがでしたか?
芝居というものを覚えたんだなって思いましたね。今回は結構役作りをしてきてたんで、それはそれでいいと思ったけど、次に一緒に組むときは芝居をしないっていう方法を覚えてもらおうかなと考えてるんですけどね。
Q:川村さんについてはいかがですか?
僕、彼女がグラビアアイドルだって知らなくて、ずっと女優の卵なのかなと思ってたんです。最近「ああ、こういう人だったんだ」って知ったんですけどね。彼女の役はその時代の女の子の役なんで、いつもの通りにやってくれれば構わない感じでした。意外とリラックスしてやってたんで、やりやすかったかな。 |
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| 何といっても美津子役の永作博美さんの演技が素晴らしくて、特にラストシーンは強烈でした。 |
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永作さんは、芝居が他の人よりできるがゆえに、現場でも燃えていじめたところがありますよ。もっともっとできるはずだ、と。他の人には無理でも、彼女はタフっぽいとこあったんで、これはいじめられるなーと思って。
あのラストシーンも、彼女は最初、薄い芝居をしてきたんだけど、「ダメだ」って言って。もっと強烈に、自分の心に傷が生まれるくらいに強い芝居を求めたんです。だから、カットがかかったあともずっと泣いてましたね。
永作さんは僕の中で、女優というより男優に近いんですよ。唯一、一緒にお酒が飲める女優ですね。この映画で仕事をして以来、よく二人で飲むんですけど、ロマンのかけらもなくて(笑)。彼女、男勝りなんで。渋谷の立ち飲み屋とかで飲んでますからね。「オヤジ、もう一杯!」って(笑)。
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そう。もともとは、社会人になったメンバーたちが漂う気球を眺めて「お〜い」というシーンで終わる予定だったんですけど、撮影中にどんどん台本を追加していったんです。
永作さんのシーンも、最初は特別出演くらいに少なかったんですよ。役の設定も、同窓会のときにちょっとだけ現れるという意味不明の人物にしてたんですけど、現場で見てるうちに、このままだともったいと思って、シーンを増やしていったんです。
実は深水君も最初は小さい役だったの。でも、「あ、深水君面白いな」と思って彼のシーンをどんどん追加していった。撮影の3日前とかに差込で入れていったんで、皆驚いてましたけどね。深水君なんか事務所に電話して、「もしかして僕、主役なのかもしれない」って(笑)。この映画の中で伸びるなと思った人は撮影中にどんどん台本を書き足していって、それで完成したんですよね。
Q:後日談として描かれていた部分は最初は無かったんですか?
その通りです。というか、色々無かったです。気球の上で指輪を渡すシーンも無かったし。あれは、廃墟になった気球クラブの天井に張り付いている気球のアイディアとワンセットで浮かんだんですよ。気球が天井に張り付いているのは、ああいう二人の経緯があったからだという……一瞬のうちに浮かんだんだけどね。
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| 気球を使った撮影というのはいかがでしたか?飛ぶものを撮るというのは大変だったのでは……。 |
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結構恐かったですよね。やっぱり役者が本当に飛んだりするんで。でも飛ばざるを得なかったんで。2台の気球を用意して、両方にカメラを載せて撮ってたんですけどね。
Q:気球の上のシーンは、監督も空に飛んでいたんですか?
いや、飛んでませんね。まあ、またしても『HAZARD』的な立場になりまして……俺はいいや、と(笑)。「二人で適当にやってよ」って。役者は「適当なんですかっ。カットはどうすんですかっ」って言ってたけど、「とにかく、ぐだぐだと芝居してればいいから」って感じで。だからあのシーンって結構アドリブが多いんですよ。「恥ずかしくなったらとにかくボワーって火出せ!」って言ってあったんで。
Q:(笑)。絶妙なタイミングでボーって出してましたね。
長谷川(朝晴)君の芝居ですね。アドリブです。
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| この映画には監督ご自身の青春も反映されているのでしょうか。
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うん。僕も大学の映研に入ってたんで、サークルのだらしなさというか、ずるずるした感じというのは思い出しながら書いてました。僕の入ってた映研なんかは、夏休みっていうと「熱海で合宿ー!飲み会ー!」みたいな感じだった。それで僕が「すすすすみません……映画撮るんで皆に手伝って欲しいんですけど」って言ったら、皆イヤーな感じで「えーっ!」って。
Q:映研なのに(笑)。
そうそう。映画のプロジェクトを出すと嫌がられるような、そんなとこでした。あれに似てる。ああいう感じを出したかったんだ。
この映画の台本を書き終わってから、“熱気球クラブ・うわの空”っていう本物の気球クラブの方たちにお会いしたんですけど、実際もそんな感じらしいんですよ。気球が飛んだのを見届けたらあとは全員でビール買いに行っちゃう、みたいな。あと映画で、気球クラブの打ち上げで鍋をやってるんですけど、それも「ああ、気球クラブって鍋しかやらないですよ。よく知ってますねー」って言われて(笑)。偶然なんだけどね。「僕ってすごいなー」なんて自分で感心してましたね。
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| これから映画をご覧になる皆さんに一言お願いします。 |
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| まあ、僕の映画っていうと、とんでもない血まみれのシーンが多いというような誤解を受けていますが、実際は僕は『自転車吐息』という青春映画から始まった人なんで、前のラインに近いものが生まれたかなと思ってるんですけどね。観終わって爽やかになれる素晴らしい映画なんで、ぜひ観てください……ってとこですかね。
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| かなり作風の違うものを次々と発表されていますが、何か意識されているところはあるのでしょうか。 |
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“質より量”って感じですね。だから三池さんとかすごく尊敬してて、常に刺激を受けてます。今日本で一番刺激を受けてるのは三池崇史なんで。彼の“質より量”的な意気込みには、常に叱咤激励されてます。
それに、ジャンルや内容は全く違うにせよ、『紀子の食卓』以降は、役者の作り方とか演出の仕方は大分固まってきていると思ってるんですよ。『気球』なんてね、重い気持ちで撮ったら違う映画になってますんで。『奇妙なサーカス』の次に今度は爽やかなものが撮りたいと思ってたら、ちょうど『エクステ』の準備期間も延びて、軽くサクッと1本撮りたいっていうだけだったんですよ、最初は。そういうスタンスで撮れた映画だと思うんですよね。
これが大会社が絡んだりすると、あんな構成で、最後もあんなカッコイイ終わり方にはさせてくれないですから。なんかもっと感動的な、しまいには嵐の中で「俺は飛ぶんだ!」とかさ(笑)。「先輩は気球やめるんですかっ」って土砂降りの中で殴り合いになったりとか。「そんな先輩は見たくない!」って小○真奈美が言ったりして……。そんな、どっかで見たようなスポ根ものになってたかもしれないんで。
Q:ならなくてよかったです(笑)。
そうそう。さりげない映画って難しいんですよ、日本では。
Q:次回作も楽しみしています。
うん。最近はもう『紀子』よりも『気球』の方がいいって言う人も結構いたりするんで、嬉しいですね。これからは“出せば最高傑作”という感じでやっていきたいと思ってます。
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お会いするのは『HAZARD』での取材に続いて二度目だったが、園監督は相変わらず飄々としていてマイペース。「どこまでホントなんだろう……?」と思ってしまうお話が次々に飛び出し、今回も笑いのたえない楽しいひと時だった。
そんな監督の『気球クラブ、その後』がありがちな青春映画になるはずもなく、爽やかながらも強烈な印象を残す一作となっている。特に、インタビューでも話が出たラストの永作博美さんの演技は、ぜひ劇場で観て欲しい。
(取材・文:山内真理子、写真:昼神幸吉)
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