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インタビュー
『LOFT ロフト』中谷美紀インタビュー
中谷美紀
中谷美紀
行動に理由や答えを求めないことを、黒沢監督は教えてくださいました。
世界中に熱狂的なファンの多い黒沢清監督の3年ぶりとなる待望の長編映画『LOFT ロフト』が、ついに公開される。鬼才の奔放なイマジネーションが生み出す、ホラーの域を超えた異世界で、不思議な運命に囚われたヒロインを演じる中谷美紀が、初めて体験した黒沢ワールドについて大いに語ってくれた。
profile
[中谷美紀]
1978年1月12日東京都生まれ。93年、ドラマ『ひとつ屋根の下』で女優デビューし、95年の大森一樹監督『大失恋。』でスクリーン・デビューを飾る。その後も利重剛監督『BeLiN』(95)、中田秀夫監督『リング』(98)と『リング2』(99)、飯田譲治監督『らせん』(98)、堤幸彦監督『ケイゾク』(00)等の話題作に次々と出演。そして03年、滝田洋二郎監督『壬生義士伝』にて、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。以降も、タカハタ秀太郎監督『ホテル ビーナス』(04)、大谷健太郎監督『約三十の嘘』(04)、社会現象にもなった村上正典監督『電車男』(05)等に出演。本年は、ソン・ヘソン監督『力道山』が公開され、最新作には、様々な役柄を魅力的に演じた中島哲也監督『嫌われ松子の一生』、浜本正機監督『あかね空』(07年公開予定)がある。その他にもTVドラマ、CMへの出演、エッセイの執筆など、幅広い活躍で多くのファンを魅了し続けている。
『LOFT ロフト』
配給:ファントム・フィルム
9月9日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル池袋他全国ロードショー
オフィシャルサイト:http://www.loft-movie.com/
Q1
今回は何よりもまず、黒沢清監督とお仕事がしたくて、出演を決められたそうですね?
ええ。これまで黒沢監督が撮られた映画で、『CURE キュア』『ニンゲン合格』『ドッペルゲンガー』『アカルイミライ』など好きな作品がたくさんありましたし、監督の作品全体のトーンも好きでしたから、ぜひご一緒させていただきたかったんです。

Q.完成披露一般試写会での舞台挨拶で「“黒沢教”の一員になった感じです」とおっしゃっていましたが、監督の現場にはそういった特別感があるのですか?

まず、監督は一切声を荒げない方ですし、人との距離が常に適切に保たれているというところがあります。無理やり人の中に押し入ってくるような方ではないので、絶対的な距離感があるんですね。みんなでモノを作って「わ〜っ!」と情熱的になるというよりは、“静かなる情熱”とでも言ったらいいんでしょうか、とにかく、淡々と撮影が進んでいくんです。それが妙に心地良い現場でした。

Q.黒沢監督が他の監督と明らかに違っている点は?

やっぱり、その距離感ですね。俳優と監督との間、監督とスタッフとの間、それによって生じるスタッフと俳優との間もそうですし、カメラと俳優との間、それに、観客と作品との間にも独特の距離感があると思います。何かまるで、全てが等間隔のような気がするくらい、あらゆるところで距離が保たれているんですよね。

Q.中谷さんとしては、とてもお仕事がしやすい監督だと言えますか?

そうですね。監督の現場のスタイルは、今回の作品の雰囲気とも非常に合っていましたし、とても演じやすかったですね。例えば、カメラにあまり威圧感がなんです。HDカメラだったということもありますけど、そんなにカメラの存在を意識せずに演技に臨むことができるんですね。それによって、日常的な雰囲気の中に、非日常が忍び込んでいるといった感覚が生まれるんです。
あと、必要以上に説明がなかったり、そんなにハイテクじゃないところも好きでしたね。もちろん、『ドッペルゲンガー』や『回路』とかいった作品では、要所要所にCGを使っていらっしゃると思いますけど、基本的にはローテクのままで手の込んだことをなさるというか、映像的な部分でも、ものすごく計算されたローテクなトリックを多用なさいますよね? そこが魅力ですね。
Q2
役をつかむ上で悩まれたことはありましたか? 監督とはこの役柄について、どのように話されたのでしょうか。
黒沢監督に出会う前でしたらもっと、“どうしてこうなんだろう?”とか、理由や答えを求めていたと思います。台本を読んでわからないことがたくさんあり、不安でしたので。でも、監督に初めてお目にかかった際に、「人は理由がなくても行動するんです」とおっしゃったんですね。その言葉で、全てがクリアになったんです。確かに、答えを求めても見つからないことって、この世の中にはたくさんありますよね? 自分自身の行動についても、全てを説明できるかというと、おそらく皆さん、そうじゃないと思います。理由もないまま感情に突き動かされて、いつの間にか行動してしまうことはいくらでもあるはずですから、その監督の言葉は非常に的を得ていて、この作品のみならず、他の作品に関わる場合にも、あるいは私の人生においても大きな言葉でした。ですから、春名礼子というキャラクターを無理に全部理解しようとはしなかったんです。最初から、分からないなりに演じてみようと。監督の目を見て、指示に従っていれば、きちんと感情の流れは整うと確信していましたので、特に不安もなく演じられました。答えを求めないことを教えてくださったので、何事においても非常に楽になりましたね。監督の言葉は、私に大きな影響を及ぼしてくださいました。とても感謝しています。本当に大きな出会いでしたね。

Q.今回、演技に対して、監督から要望されたことはありましたか?

一番多かったのは、寄りのショットの時に「あまり顔の筋肉を動かさないで」というのが具体的な要望としてありましたね。

Q.それは難しいことでしたか?

感情に応じて動いてしまうものを止めるというのは難しいですね。でも、おそらく監督は、あまり顔で感情を表現したくないのだと思います。
Q3
演じられた礼子との性格的な共通点はありますか?
礼子は若くして芥川賞を受賞していますので、ものを書くことを生業としているんですけど、おそらく最初の頃はビギナーズ・ラックもあって、筆が進んで感覚で書けていた部分もあったと思うんです。でも、出版社の思惑もあって、次から次へと書かせられたり、より多くの人に読まれるようなエンターテインメント色の強い作品を書くように求められて、でも、そこまでのテクニックも持ち合わせていないので、書くことが出来ずにいるというスランプ状況にあるんでしょうね。
ただ、作家である彼女はおそらく、書くということを通じて、主観的であると同時に、自分の前にある全ての事象に対して客観的な見方も出来ていたんだと思います。当事者であるにも関わらず、一方ではその行為を観察している別の自分がいるという状況を楽しんでいたはずなんですけど、豊川悦司さんが演じていらっしゃる吉岡という人と出会っていつしか、観察者だったはずの自分が、どんどん運命に翻弄されて、当事者になっていくんですね。ミイラ捕りがミイラになってしまうんです(笑)。
私も、演じるという仕事は自分が媒介となって、あくまでも自分の感情ではなく、他人の感情を表現しているんですけど、時々間違えて、役柄の感情が自分の中に入り込み、蟻地獄のような所にハマりそうになって、抜け出そうともがくことがありますね。

Q.例えば、スランプに陥った時に、そこから抜け出す方法というのはありますか?

流れに身を任せることですね。抗わないことです。

Q.役を演じる前と演じた後では、ご自身の中に変化はあるものですか?

やっぱり、自分ではない他人の感情を考察することによって、多くのことを学びます。他人の心はわからないことだらけですから。実際、一つの役を演じたからといって、その役を本当に理解したかというと、観客の皆さんのほうがご存知のことはよくありますし、こうしてインタビューをする中で教えていただくこともたくさんありますので、そういう意味ではまだまだ知らないことだらけで、毎回何かしら教えていただくという感じですね。
中谷美紀
中谷美紀
Q4
豊川悦司さん、西島秀俊さんと共演された印象をお聞かせください。
私が言うのもおこがましいんですけど、お二人とも数多くの監督とご一緒なさっているので、現場の空気や監督の求めていることを汲み取る力に長けている方々だなという印象ですね。黒沢監督の作品の世界をよく理解なさっていて、特に西島さんは『ニンゲン合格』ですでに監督とお仕事をなさって、その現場を熟知されていたので、監督に対して無駄な抵抗をなさらないんですね。非常にスマートな立ち回り方をされるなと思いました。

Q.安達祐実さんはいかがでしたか?

現場の雰囲気、作品や監督、共演者のリミットを瞬時に読み取る方でしたね。そのリミットに合わせてご自身を発揮されて、リミットを超えたことも、それ以下のことも一切しないという、そのギリギリのラインを見極めるのがとても早い方でした。老婆のような目をする時もあれば、幼女のように見える瞬間もあったり、本当に才能豊かな女優さんだと思います。
Q5
女性が一人で住むには怖い洋館でしたが、演じていていかがでしたか?
怖かったですね。そもそも洋館って怖いですよね? これが、古い数奇屋建築だったら、怖いといっても居心地がいいような気もするんですけど、洋館は天井も高いですし、音の響き方も違っていて、ちょっと歩いてもすごく響く家でしたので、怖かったですね。

Q.スタッフがたてた音をそのまま採り入れているそうですね。確かに、画面から何か妙な音が聞こえてくる感じがあって、それがまた怖かったのですが、そうした状況音が聞こえてくるのは、演じている時に妨げとはならなかったのですか?

私は音に敏感なほうですので、自分にとっていらない音は極力聞こえてこないようにしているんですね。普段から、自分でシャットアウトするようにしています。ちょっと変わった瞑想法がありまして、近くの音から聞いていって、どんどん外の音に焦点を合わせていくんです。すると、最終的には無音になるんですね。それはすごく気持ちが良くて、その音の焦点というのは、私にとってはすごく大事なポイントでして、本当に集中しなければいけない時というのは、極力周りの音を排除します。あるいは、その作品のイメージに合った音楽を聴いて、雑音を消したりもしますね。

Q.洋館の内装や中谷さんの服装がとても可愛かったと思いますが、ご自身のテイストやアイデアは活かされているのですか?

一切活かされていません(笑)。監督を信じていましたので、監督が選んだスタッフも信じました。

Q.女性スタッフが多い現場だったそうですね。

はい。男性が女性の部屋を作るとどうしても違和感を覚えることもありますけど、今回は美術監督も女性でしたので、そういう意味では、キャラクターとも合っていたのではないかなと思います。
Q6
舞台挨拶で西島秀俊さんが「スタッフ・キャストが熱狂する現場だった」とおっしゃっていましたが、現場にいて印象に残っているエピソードがありましたらお聞かせください。
舞台挨拶で西島秀俊さんが「スタッフ・キャストが熱狂する現場だった」とおっしゃっていましたが、現場にいて印象に残っているエピソードがありましたらお聞かせください。 そうですね、その熱狂の仕方に無駄がないんですよ。例えば、撮影もほぼ夜10時くらいに終わるんです。普通にサラリーマンのように、みんなが朝集合して夜帰っていくという(笑)。なんか、映画を作っている泥臭さが一切ないんですよね。それが不思議でした。それはおそらく作品にも表れていると思うんですけど、黒沢監督の持っていらっしゃる品の良さが現場にも反映している感じでした。普段の監督をよく存じ上げないんですけど、みんなでワイワイ食事をしながらお酒を飲んで、作品のアイデアを話し合うような監督ではないと思いますので、現場でもそういった雰囲気があるんですよね。

Q.撮影中に怖い思いをしたような体験はありましたか?

撮影中には特になかったんですけど、私、金縛りにはよく遭うんですよ。ですから、いつもの延長線上で、この撮影中も金縛りに遭ったかな、というくらいで(笑)。

Q.金縛りに遭った時には、それを解くために何かされるんですか?

もう抵抗しても仕方がないので、抵抗しません(笑)。怖いですけど、おそらく疲れているから、そうなるんじゃないかなと思っています。
Q7
礼子が「何もかも捨てる!」と叫ぶシーンがありますが、愛のために何かを捨てるという主人公に共感できますか?
ごめんなさい、できません(笑)。何かを得るために何かを捨てるという気持ちはわかります。両方を手に入れるというのはおそらく不可能ですから、取捨選択しなくてはいけないと思うんですけど、愛のために全てを捨てるというのは、私には出来ないですね。それが例えば、自分が生んだ子供だったら可能かもしれないですけど、いわゆるパートナーとの愛のために全てを捨てられるほど寛容ではないというか、慈愛深くないと言いますか(笑)。すみません、私はエゴの塊なんです(笑)。

Q,共感できない時、どのように役の気持ちに入っていくのですか?

何も考えないことですね。とりあえず、自分が置かれた状況の空気や、監督が生み出す現場の空気をキャッチします。あとは、どうしてこうなったのかとか、前のシーンはこうだったからどうするとか、次のシーンはこうなるからここはこれくらいにしておこうとか、前後のバランスは一切計算せずに、その場限りの演じ方をしたほうが、かえってうまくいく場合が多いですね。
Q8
もしも、永遠に美を保てる方法があったら使いますか?
全く興味がないと言ったら嘘になるかもしれませんけど、じつを言いますと、そもそも“永遠”というのは私が最も嫌いな言葉なんですね。嫌いと言ったら語弊があるかもしれませんが、最も信じていない言葉なんです。だって、必ず終わりがあるから、この人生を楽しめると思っていますので。はたして、不老不死の薬が開発されて、それを飲むかと言われたら、私はおそらく飲まないですね。善悪も上下も左右も全て、二つの力が同時に働いて成り立っていると思いますので、生と死も両方あっての人生なんじゃないですか。
Q9
インドを紀行された際に、「女優を辞めても大丈夫かもしれない」と書かれていましたが、その思いは今はいかがですか?
今も、続けても辞めてもどちらでもいいかなという感じです。単純に、体力的な限界はいつか訪れると思いますので、いつまで徹夜の現場に耐えられるかという問題もありますし、あとはそれ以前の問題として、この先お仕事をいただけない可能性も十分にありますので、それを念頭に置いた上で、体力とお仕事のオファーが続く限りやれるかもしれませんが、もしどちらもかなわなくなったとしたら、それもまた仕方ないし……と思いますね。

Q.続けていたいという思いは持っていらっしゃるのですか?

このお仕事は好きですけど、礼子のように出来ないのに無理をして、商業的な理由で続けていくというのは辛いです。本当に情熱を傾けられる作品に出合っていけるのなら、続けていきたいなと思いますが。

Q.「いつも撮影が始まる時は、プレッシャーを感じる」とどこかでお話になっていましたが、今回の作品に関してはいかがでしたか?

プレッシャーは毎回ですね。何かの作品が特別なわけではなくて、毎回別の価値観と出合いますし、監督によっても現場は異なりますので、毎回恐ろしい思いをします。

Q.それをどのように乗り越えていらっしゃるのですか?

やはり、プレッシャーというのは自分が良く思われたいということの裏返しだと思うんですね。いい演技をしたいとか、人に感動を与えたいとか、どこかでそういう気持ちがあると思いますので、それを拭い去るんです。たとえ自分が下手だったとしても、相手のお芝居が良ければいいとか、監督の思い描いている世界が良ければいいと考えるようにします。まずは自分の演技について一切考えず、いったんゼロにするんです。あとは、自分自身を委ねて、他の方たちからたくさんのことを学ばせていただくことですね。
Q10
ホラーでもありサスペンスでもありラブ・ストーリーでもある作品ですが、中谷さんご自身はこの映画からどんなことを一番強烈に感じましたか?
永遠の愛、永遠の美がテーマになっていると思うんですけど、それがいかに手に入らないものなのかということ、そして、世の無常を感じさせられましたね。あとは逆に、人間の滑稽さを突きつけられた気もします。

Q.1回観ただけでは解釈しきれない部分がある映画だと思いますが、中谷さんはご覧になっていかがでしたか?

観れば観るほど面白くなる映画だと思いますね。自分自身が出演していますので、初見だけでは判断のつかなかった部分もあるんですけど、観れば観るほど黒沢監督の巧みさがじわじわと分かる作品でしたね。ずるいな、っていう(笑)。

Q.見どころはどこですか?

圧倒的な美しい映像と、人を不安にさせる訳の分からない話と(笑)、黒沢監督の巧みな演出をぜひご覧いただきたいです。そして、女性の方々には、永遠の愛、永遠の美とは、誰しもがどこかで憧れつつも、絶対に手に入らないものであり、そういった夢がいかに空しく儚いものであるかということを、あらためて感じていただけると思います。何の希望にもなりませんね(笑)。
編集部の呟き
『嫌われ松子の一生』で多彩にして壮絶な人生を歩むヒロインを演じきり、女優として更なる飛躍を遂げた中谷美紀さん。本作『LOFT ロフト』では、女性を主役にしたのはほぼ10年ぶりという黒沢清監督に抜擢され、恐ろしい運命に手繰り寄せられていくヒロイン役で、しっとりと儚げでありながらも、静かなる迫力さえ感じさせる演技で、新たな魅力を開花させている。インタビューでも、その語り口は静かで内省的だが、女優として日々格闘しながら、気張ることなく一歩一歩前に進んでいる様子が伺われ、女性として勇気づけられる思いがした。
(取材・文:松浦真居)
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