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インタビュー
「ラスト、コーション」アン・リー監督 単独インタビュー
「ラスト、コーション」アン・リー監督 単独インタビュー
私自身、あまりに作品世界に入り込んでしまい、地獄に落ちたような気分を味わいました
日本軍占領下の上海と香港を舞台に、抗日運動に身を投じる美しき女スパイと敵対する傀儡政権下特務機関の顔役の危険に満ちた“禁断の愛”を描いた「ラスト、コーション」。ヴェネツィア国際映画祭グランプリ受賞で話題騒然の本作が、いよいよ2月2日より日本で公開される。本作のPRで昨年末に来日したアン・リー監督の単独インタビューをお届けしよう。
profile
[アン・リー監督]
1954年、台湾生まれ。75年に国立芸術学院映画演劇学校を卒業し、78年に渡米。92年に「推手」で長編デビュー。93年の「ウェディング・バンケット」と94年の「恋人たちの食卓」は各国の映画祭で賞賛され、2年連続でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど、国際的な脚光を浴びる。95年には、ジェーン・オースティンの古典的名作を映画化した「いつか晴れた日に」でベルリン国際映画祭2度目の金熊賞受賞を皮切りに、アカデミー賞では作品賞ほか主要7部門で候補になり、数多くの賞を受賞。05年の「ブロークバック・マウンテン」ではふたりのカウボーイの波乱の人生と愛のうつろいを、精緻なまなざしで活写し、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞、アカデミー賞では監督賞ほか脚色賞、音楽賞に輝いた。
「ラスト、コーション」
配給:ワイズポリシー
2月2日よりシャンテシネ他
オフィシャルサイト
記者会見で、本作は「ブロークバック・マウンテン」の姉妹作的な位置付けにあるとおっしゃっていましたが、再び“禁断の愛”を描きたいと思われた理由をお聞かせください。
今回のテーマはロマンスに対して僕自身が探求しているものでもあるんです。つまり、わからないことこそ興味があるし、神秘的で偉大だと思うんですね。はっきりわかっていることは、いくら語っても面白くないし、ロマンティックでもないでしょう。もし愛について全てわかっているのなら、おそらく3000年の間にラブストーリーなんてなくなっているはずです。

愛に触れることは日常生活においてごく普通のことであると僕は期待していますが、観客の皆さんはお金を払って映画を観てくださるわけですから、せめて映画館では“禁断の愛”に触れて欲しいと思っているわけです(笑)。
監督が“禁断の愛”を描くことにそこまで惹かれるのはなぜですか?
映画の題材選びは縁があるかないかにもよるのですが、この5年ほどは愛について描くことにとても関心があります。通常は2、3作同じようなテーマで撮ったら他のテーマを探すのですが。

僕にとって、実生活は退屈の連続なんです。ですので、今回こういったテーマの映画を撮ったのは、ある意味で皮肉かもしれません。あるいは、中年特有の危機的状況と言えるかもしれませんね(笑)。“中年の危機”というと、スポーツカーに熱中したり、女遊びに熱中したりするものだと思いますが、僕の場合はこのようなテーマで映画を撮ることだったんです(笑)。
「ラスト、コーション」アン・リー監督 単独インタビュー
ワン・チアチー役のタン・ウェイさんとクァン・ユイミン役のワン・リーホンさんにもお話を伺ったのですが、お二人ともあまりに役に没頭したために撮影後に役から抜け出すのが大変だったとおっしゃっていました。監督ご自身も、やはりこの作品はそこまでしないと撮れなかったと思われますか?
撮影では私自身もあまりに作品世界に入り込んでしまい、なかなか抜け出すことができずに、地獄に落ちたような気分を味わいました。特にベッドシーンの撮影では、自分の精神状態がどうなっていくのか把握できなくて怖くなるほどでした。この映画自体が、“無名の恐怖”とでも言うべき非常に強い殺気を纏っているんですね。でも、自分でもなぜかはわからないのですが、自分に向かって「やれ」と手を振っているような気がして、それで撮影したんです。

役者たちに比べると私には映画の撮影後も編集や音楽といったポスト・プロダクションの仕事が2、3ヵ月残っていたので、作品から抜け出すまでに時間がかかりました。先日、上海で公開されたのですが、人々が非常に好意的でこの映画を気に入ってくれたと言ってくれたので、やっとほっとしました。撮影から2年経ってようやく抜け出すことができました。
本作のベッドシーンは12日間をかけて撮影されたとのことでしたが、演じたトニー・レオンさん、タン・ウェイさんにはどのような指示を出されたのですか?
ベッドシーンを撮るにあたって、役者たちとは本当に時間をかけて多くのことを話し合いました。でも、その多くは非常にパーソナルなことですので、ほとんどのことはここでご紹介することはできません。そこはどうかご理解ください。監督としては素晴らしいシーンが欲しいのですが、一方で役者の二人を傷つけてはいけない、役者を守らなくてはいけないという気持ちもあるので、ベッドシーンの撮影はとても苦しいものでした。

私が役者にどういう要求を出したかについてはいくつかお話したいと思います。セックスシーンを演じてもらうにあたって、役者にはこのドラマをできるだけ理解してもらうために様々な指示を出しました。一番重要なこととして繰り返しリマインドしたのは、ワン(タン・ウェイ)とイー(トニー・レオン)の愛がどこまでが真実で、どこからが偽りなのかを意識して欲しいということでした。

例えば、2番目のベッドシーンで、二人が抱き合ってワンがイーにキスするシーンがあります。ワンはイーに非常に積極的にキスをしようとするのですが、それはつまり彼の目を避けるためなんですね。トニーの目は彼女の愛が真実か偽物かを尋問しているんです。ワンはイーの目を避けようとしてキスをしようとするのですが、イーは逆にキスを拒否してワンの目を見ようとするわけです。最後にワンがオーガズムに達して二人は抱き合うわけですが、ワンは実は父親の愛情を欲しているわけです。だから、ワンは自分よりも年上の男性に惹かれるのだと、あのシーンを演じるタン・ウェイに繰り返しリマインドしました。

トニー・レオンに対しても、ベッドでの姿勢やシーンの理解についてその都度、細かく指示をしました。どのテイクを撮るときも指示を出したので、撮影は大変でした。

3番目のベッドシーンの撮影は恐怖そのもので、これまでに経験したことのない非常に強烈な現場でした。このシーンではイーがワンに対して恐怖の気持ちを抱くようになる一方で、ワンはイーの愛が欲しくてたまらなくなるわけです。ストーリー上もお互いに相手を引き裂くような精神状態になっているのですが、役者たちもものすごく集中していて、私自身も役に入り込んでしまって精神がおかしくなりそうでした。
次回作については今何かお考えですか?
今はまだ何も考えていません。まだこの映画を撮り終えて、回復期にいるというか、いい脚本との出会いを待っているところです。できれば次はコメディを撮りたいと思っています(笑)。
編集部の呟き
とにかくとても物静かで穏やかだったアン・リー監督。柔らかな声で丁寧に言葉を尽くして語ってくださり、いつまでもお話を聞いていたいと思う至福のひとときだった。こんな監督が「地獄に落ちた」と語るのだから、現場はどれほど壮絶だったのか…。ぜひ劇場に足を運んで映画を観ていただきたい。
(取材・文・写真:山内 真理子)
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