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| 今いる世界で、敢えて逆の立場の人たちの側に立って社会を考えたときに、ぱっとイメージが浮かんだのが、老人ホームに入っているおじいさんだったんです
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| 第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門において、グランプリを受賞し、同映画祭で一躍注目を浴びた河瀬監督。カンヌでの作品上映はこれが3回目とだけあって、日本人としては常連と言ってもいいだろう。南仏の風を浴びてリラックスした河瀬さんに、映画について話を聞いた。※このインタビューは受賞が決まる前に行われたものである。
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[河瀬直美監督]
989年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業。自主映画『につつまれて』『かたつもり』が、1995年山形国際ドキュメンタリー映画祭はじめ国内外で注目を集める。劇場映画デビュー作『萌の朱雀』では、1997年カンヌ国際映画祭カメラド−ル(新人監督賞)を史上最年少受賞。続く『杣人物語(そまうどものがたり)』で、1999年ニオン国際映画祭特別賞受賞する。2000年『火垂(ほたる)』は、スイスのロカルノ国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアされ、国際批評家連盟賞、ヨーロッパ国際芸術映画連盟賞のダブル受賞、2001年ブエノスアイレス国際映画祭でも最優秀撮影監督賞、主演女優賞を受賞、そして2003年、『沙羅双樹』がカンヌ国際映画祭のコンペに出品される。また、CF演出、小説、エッセイなどジャンルにこだわらず表現活動を続ける。新作ドキュメンタリー「垂乳女」(たらちめ)も全国で上映会展開中。
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『殯の森』
配給:組画
2007年6月より全国順次ロードショー
オフィシャルサイト |
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| まずは今回のコンペティション入りおめでとうございます!
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ありがとうございます。
Q:今の率直な感想を教えて下さい。
カンヌはやはり馴染みの場所なのでまた来ることが出来て嬉しいです。特に今回はフランスの会社を共同製作者に選んだ時点から、この映画祭は目指していた部分でもありますし、今回は自分でプロデュースもしたので、いろんな難関があったからこそ余計に嬉しかったですね。 |
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| 初の海外共同プロデュースということですが、どんなところが難関だったのですか? |
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| やっぱり感覚の違いとかやり方の違いですね。単純に言葉で違いを話し合って調整していけばいいところが、時差があったり言語が違ったりすると、難しいというか。会って話せばクリアになることが、メールや国際電話になると、ニュアンスがなかなか伝わりにくい。フランスが主導で、監督だけ日本人が参加することはあったかもしれませんが、日本のスタッフで日本で撮影して、そこにフランスの会社が出資するというのは初めてなんじゃないかと思いますよ。
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| カンヌ映画祭は河瀬さんの中でも特別な映画祭だと思いますが、今年60周年を迎えられたということで何か感想がありますか?
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『萌の朱雀』がちょうど50周年の時だったんですよ。だからなんか節目の時に呼んでくれてとても嬉しいなと(笑)。縁があるなと思いますね。
Q:カンヌが他の映画祭と違うところはどんなところでしょうか?
一言で表現するのはとても難しいのですが、世界各国の映画関係者が一箇所に集まって、そこで作品が上映されると、一斉に世界配信ができるというか、一気に世界に結びつくことが出来るんですね。それはカンヌだけだと思います。 |
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| 河瀬さんの作品は特に海外で評価が高いですが、自分の作品が海外で受け入れられる理由は何だと思いますか? |
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| 私の作品は海外というよりも、特にヨーロッパなんですよ。
フランスはじめヨーロッパの人々の考えの根本には、作家の世界観というのがまずあって、それをどのように形にするかというのが目指されるところだと思います。日本やハリウッドの映画は、まずテーマや話題性、スター性というのがあってそこからお金が集まっていくんだと思います。作家性というのは、まあ少しあればいいぐらいで、主体にはならないんですね。
でもヨーロッパはその逆で、作品そのものの内容とか世界観、ストーリーは単純であっても観た時に感じる世界観みたいなものを、最重視してくれている気がします。
きっと何も有名な俳優が出てなくても、作品の世界観を価値として売っていく土壌と、受け入れる土壌があるんでしょうね。 |
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| そういう作家性を重視する国に受け入れられるというのはとても嬉しいことですね。 |
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本当にそうなんですよ。日本で育つと、例えば学校とかも敷かれたレールの上を歩くことがどちらかと言うと良いとされていて、そこからはみ出る者はダメとされているじゃないですか。授業中に手を上げて違う意見があることを述べても構わないのに、それさえも列をはみ出すことになるというか。私はそういうところに窮屈さを感じるタイプなので(笑)。
海外の製作者たちといろんな枠組を超えて、作品のためにいろなディスカッションを重ねていくことは、とっても刺激的で気持ちよかったですね。映画の中で主任がいう「こうしゃなあかんってことないから」って、わたし自身がずっと感じてきたことだったしね。 |
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| 逆に日本で作るときに日本映画界にもそういったレールのようなものがあって、同じような窮屈さを感じたりすることはありますか? |
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| 今の邦画で興行収入を上げるというのは、どちらかというと原作やテレビドラマのリメイクがあったりで、オリジナル脚本のものがないんですね。私としてはそこはずっと目指したい部分なんですよ。でも作家性だけを主張していくと絶対無理なんです。なので、そんなわがままな監督を上手くプロデュースしてくれる人間が絶対的に必要なんです。そしてちゃんと流通してくれて、コンスタントに大ヒットを飛ばさなくても、作り続けられるという状況がもう少し広がってくれればいいなとは思いますね。 |
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| 今回は介護問題というテーマも盛り込まれていますが、この映画を作ったきっかけを教えてください。 |
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| 私の育ての親で養母にあたる今年92歳のおばあちゃんがいるんですけど、認知症の傾向が出てきたんです。私自身が、行政や介護の現場で介護制度を利用するようになったんですが、なかなか上手くいかないことが結構あるんですよね。そうすると、やっぱり制度に全てを任せることが出来ないなと思うんです。身内とか家族が主体になってそれを利用する立場になる必要があるんです。
その時すごく悩んだんですけど、ある時ふと相手の立場、おばあちゃんの立場になってものを考えてみたら、割とものごとが上手く解決されたんですね。要するに相手に合わせてものを考えるということが大事だな、と。すると、皆もう少し優しくなったり、あまり殺伐としない気がしたんです。
今いる世界で、敢えて逆の立場の人たちの側に立って社会を考えたときに、ぱっとイメージが浮かんだのが、老人ホームに入っているおじいさんが、亡くなった奥さんの墓参りに行くって感じだったんです。 |
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| 主人公のおじいさんを演じたのは、河瀬さんの友人でもある、うだしげきさんなんですが、プロの俳優さんではなく、素人さんなんですよね?
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そうなんです。新人なんですよ(笑)。うださんって裏表がなくてほんとに純粋な人で、現場を作ってあげればそこにはまっていく人だなと思ったんです。俳優さんってどうしても誰かの作品のイメージを持ってこられることがあるんで、観客としても、「ああ、あの人」って感じで入るんですが、こっちとしては純粋に映画そのものから入って欲しいしですし、そこにリアリティを感じてくれれば、より観客の人生に影響及ぼすんじゃないかと思うんです。
まぁ、うださんを起用するというのは、一種の賭けではありましたけど(笑)、マーケットの事を考えれば素人をキャスティングすることは、売りづらい作品になるので、なかなか受け入れられないですけど、純粋に作品の世界のことを考えると、そこは自分にとってはあまり関係がないところなんですよ。そうはいっても今回はプロデュースもしたので回収のことを考えたらね.....、でもこの映画で映画を辞めるわけではないので、ずっとこのスタンスで撮り続けていくうちに、私の目指すいい形での映画作りできると嬉しいなと思います。でもうださんには主演男優賞くらいとって欲しいですね(笑)。
Q:うださんは最初その話が来たときに全く抵抗とかはされませんでしたか?
彼にもいろんな葛藤はあったと思いますよ。
うださんとは話し合うというよりも、魂の部分で分かり合えている気がしてたんで、彼とでなければこの映画は完成しなかったでしょうね。 |
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このインタビューは受賞前に行われたものですが、今考えると河瀬さんはどこかでこの映画が賞をとる手ごたえを感じていたのでは、なんて思いました。帰り際に、作品がコンペ入りしたある監督が上映前にとてもナーバスになってインタビューすら出来ないことを話すと、大変びっくりした様子で、「私なんて上映が楽しみで楽しみでしょうがないんですよ。最終日に上映されるんですが、今こうして待ってるときが一番楽しいです!」と無邪気に語っていた河瀬監督。その表情が少女のように天真爛漫で、さっきの映画製作について語る真剣な顔が嘘のよう。監督のいい意味での二面性が妙に印象に残っています。
(取材・文・写真:篠原藍)
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