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インタビュー
『Watch with Me〜卒業写真〜』津田寛治 単独インタビュー
『Watch with Me〜卒業写真〜』津田寛治 単独インタビュー
死んでいくということにネガティブな描き方をしていない映画です。死んだからって終わりじゃないって思います
ベルリン国際映画祭で絶賛された「千年火」の監督・瀬木直貴をはじめとする主要スタッフが再結成。癌を患い、余命半年と宣告された元報道カメラマンが故郷に戻り、失いかけた自信の思い出を辿る道程と、それを見守る妻や友人たち。本作は看取る側、看取られる側の心の機微を情感豊かに描き出したヒューマンストーリーである。今回、主人公の和馬を演じた津田寛治さんにお話を伺った。
profile
[津田寛治]
1965年生まれ。北野武監督の「ソナチネ」(93)でスクリーンデビュー後、「模倣犯」(02)にて第45回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。「樹の海」(95)で第17回東京国際映画祭<日本映画・ある視点部門>特別賞を受賞するなど、現在の日本映画界に欠かせない俳優として活躍中。主な作品に映画「イズ・エー」(04)、「ラブ キルキル」(04)、「小さき勇者たち〜ガメラ〜」(06)、「LIMIT OF LOVE 海猿」(06)などが多数。
『Watch with Me〜卒業写真〜』
配給:ティ・ジョイ
6月9日(土)新宿バルト9他、全国ロードショー
オフィシャルサイト
リアルで静かで、それでいて力強い津田さんの演技に心打たれました。どのような役作りをされたんですか?
僕も今回のような役は初めてだったので、手探りだったんです。現場に医療の先生がいらしてたので、かなりサポートしていただきました。また、監督が本作を撮るにあたって、ホスピスのボランティアに通ったりとかされてたんで、病症とかにも相当詳しくて。

やっぱり芝居に集中してしまうと、病状を忘れがちになってしまうんですよ。そういうときには、「津田さん、そんなにはしゃべれないよ。変なところで間が空く感じで。」とか、肺癌で肺をひとつ失ってしまったという設定なので、ちょっと歩くだけでも全力疾走したような息の荒さがあることなど、教えていただきました。 演じる上で難しかったのは、痛みを感じないという点ですね。ホスピスは緩和ケアですので、患者さんには痛みがないんですよ。そのため、そこで辛さの表現を頼れないというのも難しかったです。どちらかと言ったら“だるい”んですが、ただ“だるい”だけだとそんなにしんどそうに感じないんだけど、もう本当に辛くて辛くて仕方ないくらいの“だるさ”ってのが、やはりなかなか想像つかなくて。

しかも、撮影は順撮りではなく抜き撮りだったので、余計大変でしたね。病状が徐々に悪化していくので、「ここはまだそんなに悪化していないから、そんなに辛いときじゃない。」とか考えながら演じました。また、そういう患者さんの特徴のひとつとして突然ぐた〜となったり、その日は調子がいいとか、そういう切り替えが瞬時にあるのです。今まで元気に話してたのに、急に力がなくなるとか。 医療の先生に色々お話を伺いながらそういうのをイメージしていくのが、大変といえば大変でした。
本作に出演されるまで、“ホスピス”に対して津田さん自身はどのようなイメージを持っていましたか?
“ホスピス”という言葉を僕が一番最初に聞いたのは、エイズ患者を扱ったドキュメントを観たときでした。そこではもう治らない病気を抱えつつ、病気を治すことよりも残りの人生をどう生きるかを考える人たちの集落を、ホスピスと呼ぶと聞いた記憶があります。その頃、日本ではホスピスという言葉はまだ一般的になっていなくて、そういうのがあるんだという感想でした。エイズという特定の病気のためにあるものだと思いきや、そうではなく、難病にかかった人たちが助からないときに、死ぬまでに苦しんで苦しんで死ぬのではなく、痛みをとってあげるケアをしながら、その人が生きたいように最後まで残りの人生を送らせてあげる。そういうのがホスピスなんだ認識をもったのはここ何年かですよね。 やっぱり僕も相当そういう知識って薄くて、一般的にも日本ではそんなに浸透していないんだろうなという気はしますね。

Q:本作はそのきっかけとなるでしょうか。

本作はホスピスを扱っているんですけど、いわゆるホスピスセンターっていうものをそんなに重要視していないんですよ。僕はそこが素敵だなと思うのですが。本来のホスピスはどうあるべきかとか、そういうところに重点を置いてて、だからその人なりのホスピスってあると思うんです。なにもホスピスセンターに通うのばかりがホスピスではなく、その人が居たい場所で何をやって残りの人生を過ごすか。それがホスピスだと思うので、そういった意味でだと、僕もホスピスでちゃんとしたケアをしていただきながら亡くなりたいなという気はしますね。
津田さん演じる和馬が言う「人が死ぬって、卒業みたいなもんかも知れないな。」と劇中の台詞がとても印象深いのですが、どのような気持ちでこの台詞を言ったのですか?
同じ意味ですが、僕も死を“旅立ち”という意味で捉えていたんです。本作は死んでいくということにネガティブな描き方をいていない映画なんです。死んだからって終わりじゃないっていう、ある意味“輪廻転生”的で、終わりと始まりは背中合わせだから、次があるんだよみたいな。そういった次への旅立ちという感じですかね。 卒業と入学が背中合わせであるように、やっぱり終わり=次への出発みたいなそういうイメージでした。

Q:和馬も津田さんご自身も前向きな気持ちだったわけですね。

そうですね。やっぱり僕も死んだらそれで全てが終わるとは思いたくないですね。死んでも次があると思ったほうが、気持ち的に楽というか。
本作に出演したことによって、生きる意味、看護に対する意識など何か変化はありましたか?
最初、脚本を読ませていただいたときに、何か自分の中にしっくりくるものがあったんですね。やっぱり僕自身も、なんと言うのか死ぬことをそんなにネガティブに捉えたくないっていう思いもありましたし、この映画もただ単にお涙頂戴の悲しい癌患者の映画にしたくないという監督の意向がものすごくあって、やっぱり最後は笑顔で終わりたい。希望のある状態で終わりたいと。大胆な切り口であると思うのですが、死んだからって人生の全てが終わるわけじゃないんだと。

物理学的な世界にいってしまうのかも知れませんが、そもそも一方通行の時間の流れで一生を終えることだけが、魂にとっての全てではないっていうのかな。そういうすごく大胆な切り口である映画だな〜っていう気はしたんですね。だから本当に演じている間でも常に死んだ後というのは意識していたし、それと+αというか、同時進行で大きな任務として癌患者というのをリアルにしっかり描くということですかね。やっぱり死んだから終わりじゃないってことをちゃんと描こうとするならば、本当に癌患者の持っている苦しみをできるだけリアルに描かないと絵空事になってしまうし、そんなことになったら実際の癌患者の方々にすごく失礼だと思うんですよね。そういう方々を傷つけることにもなると思うので、今までにない切り口であればあるほど、土台となるそういうものはしっかり演じていかないといけないな、という思いはありましたね。
死に行く中で和馬は中学時代の思い出を辿っていくわけですが、和馬は自分の死をどう捉えていたのでしょうか?
和馬は、ものすごく気持ちは静かだったんだと思います。それで気がついたら自分の記憶の中に初恋の思い出がこう入り込もうとしていたというか。そこにはもうひとつの物語があるんですが、やっぱりその頃に犯してしまった過ちというか、一人の自分の大事な少女を救うことが出来ずに別れてしまったという罪の意識が、そこから先の和馬の成長をストップさせている要因になっていて、最期を迎える間際に今まで封印していた記憶を思い出してしまったという経緯があるんです。でもその引っかかりというのが、ひょっとしたら無意識の中での生への執着なのかもしれない、という思いは僕の中にもありました。

和馬の台詞にある「死ぬのは怖くない。けど“ここ”が痛い。」というのが一番表していると思うのですが、“ここ”の痛みというのが和馬の場合は過去の思い出として現れてきたんだと思うんです。 だから本当に具体的に「死にたくない」とか、具体的に「死後の世界に早く旅立ちたい」とか、そういうのはない。何と言うのかな、ハッキリとした思考のない世界で生きているんだろうな。それは多分、緩和ケアのこととか病状のこととかもあって、半分夢心地の中で生きているというのかな。そういう思いだったと思うんです。

本当に和馬って台風の目みたいな存在で、あんまり死のことをちゃんと捉えてないんです。逆に周りで和馬の死を看取ろうとしている人たちの方が、和馬の死をものすごくたくさん考えている。そのことで、和馬の死を通して周りの人たちがすごく成長していく物語でもあるな、という気もしました。本当に看取る側の映画でもあるんですよ。
和馬は看病してくれている奥さんの由紀子よりも初恋の女の子であるひとみに夢中ですよね。
そこは製作中も相当色々と話し合いの焦点になったところなのです。やっぱり男目線の映画になりがちだから、これだと女性の観客が「こんな都合のいいことないよ。」と怒ることになってしまうんじゃないかということで、重要だったのは羽田さん演じる由紀子だったんです。彼女の役は、下手したら悪役にしかならないんですね。病人にあそこまで悪態をついているわけですから。だけど今回、女性の観客が由紀子の気持ちにすごく同情して「やっぱり、そうなるよね。私だってそうなっちゃうと思うわ。」って思って下さったんです。それはやっぱり羽田さんが、由紀子をすごく魅力的で感情溢れ好感が持てる女性として演じてくれたからであって、観客とスクリーンの橋渡しになってくれたと思います。特に女性の観客の気持ちを付いてこさせてくれたという感じがあって、やっぱりそういう意見が多ければ多いほど、羽田さんにも感謝していますし、嬉しいですね。

由紀子からしてみれば和馬に腹が立つというか、何でそんなに自分勝手なんだと。今まではそこまで感情を露わにした看護人というのも、描かれたことがなかったので。やっぱりみんなマリア様のように両手を広げてどこまでも優しい女性でしかなかったから、そういった意味でも新しい切り口だなと思いますね。


Q:それでも和馬は最後まで由紀子を愛していたんですよね。

そうですね。やっぱりリアルなひとみというのを追いかけていたのではなく、抽象的なひとみというのを追いかけていたんだなと。そこでひとつ解決したときに残ったのはやっぱりいつも横にいてくれた妻だったいうのは、リアルだなと思いましたね。
当たり前だと思っていた日常や家族に感謝しなければいけないなと改めて思いましたが、津田さんご自身は本作に出演したことで、大切に思うものが増えましたか?
この映画が描こうとしているものというのは、僕自身が昔から引っかかっていた部分が多かったりしたんです。当初はそんなこと意識してなかったのが、演じていくうちに「あっ、実は俺が引っかかっていたところをこの映画は描こうとしているのかな。」と、思ったりもしたんです。

そのひとつとして、ものすごく地味かもしれないけれど、日常をしっかり生きている方っているじゃないですか。けっして奇想天外な展開がある人生ではない。毎日同じところに通っては同じ場所に帰ってくる。毎日同じ仕事をしては帰ってくる。普通に結婚して子供を育てて。口数多く自分のポリシーを語るでもなく、黙々と働いている。子供にも自分の背中を見せて子育てをしていくような、そういう方たちの中でも特に、本当に立派だなと思う方もいらっしゃって。でもそういう方って往々にして評価されなかったりすると思うんですよね。

例えばその一例として主婦の方ってあれだけ大変な仕事をものすごくやっているのに、給料があがるとかそういうわけでもなく、何かの賞を貰えるとかそういうわけでもなく、評価があるわけでもないのに、あれだけのことを一生懸命に黙々をこなしていますよね。そういう風に頑張っていう方たちこそ、人生の一番核にあなる大事なところを常に触れ合いながら生きているんだっていうのが、ものすごくこの映画のひとつのテーマになっているんだなと思います。それは台本を読んだだけではわからなくて、演じてみてすごく感じたところですね。だから本当にこの映画が、そういう人たちの応援歌になってくれればいいなと、撮り終わった後に切に思いましたね。


Q:ある意味、俳優さんは演じることで様々で人生を生きていますよね。その意味でも俳優という職業に対する意識の変化はありましたか?

俳優は確かに毎日同じことの繰り返しはないし、積み重ねていくことがいい仕事でもないというか、常に新しいことをやっていかなければならない仕事ではあるので、ついつい見逃しがちなことも多かったりするんですよ。だからこそ、主婦のような方たちが大事にしているものや、生き様の中にある尊敬すべきところとかを僕も失くしちゃいけないなと。そういう方たちを演じる機会もすごく多いし、その部分は常に自分の中にも持っていないといけないというか、捨てちゃいけないですよね。彼らにはなれないけれども、そこはやっぱり常に理解しようと思っていますし、近づきたいと思います。
和馬は報道カメラマンという設定ですよね。劇中でも津田さんのカメラを持つ手が決まっていましたが、ご自身は普段からカメラをお使いになられるのですか?
デジカメはよく使ってういたんですが、和馬が使っているのはニコンのF3という報道カメラマンが昔よく使っていたフィルムカメラなんですね。この映画をやるにあたって監督と初めてお会いしたときに、「癌患者である前に報道カメラマンでいてください。」ということを強く僕におっしゃったんです。僕も意外だったんですが、それで和馬と全く同じカメラを購入しまして、どこの現場にいくにもそれを持っていってなるべく写真を撮って慣れ親しむようにしました。

Q:ではカメラをだいぶお好きになったんではないですか?

なりましたね!やっぱり全然デジカメとは違うので、相当フィルムカメラの魅力に今もはまっています。

Q:是非とも和馬のように写真集製作を目指してください。

(笑)。そこまではいかないですけど(笑)。僕は割りと風景写真が多いんですよね。どうしても人を撮るのは恥ずかしくて、ベンチとか物を撮るのことも多いです。
今後はどのような役を演じてみたいですか?
本作の和馬も、本当に演じられて良かったと思うやりがいのある役だったのですが、常々僕がやりたいなと思う役は、犯罪者の役ですね。犯罪者の役をもっと突き詰めて演じてみたいなと思っています。今の世の中、本当に考えられないような犯罪が多かったりするじゃないですか。それ以前から思ってはいたんですが、完璧に犯罪者が加害者なのかどうか、気になるところでもありまして、なんでその人がそうなってしまったのかというところをもっと掘り下げて考えると、やっぱり幼児期の出来事とか色々なことが関与していると思うんですね。そこがしっかりと描かれた、そういった背景をしっかりと持った犯罪者という役をちゃんと演じてみたいなと気はします。
本作を観た観客の方たちにどのようなメッセージを伝えたいでしょうか?
やはり本作はいわゆる普通の医療ものや癌患者ものを描いているのとは違う“死”を描いていると思うんです。惜しまれて死んでいく癌患者ではなくて、どうこの男を送りだそうかという風に、死を前提にして旅立つ旅人のように、癌患者を敬っている看護人の映画でもあります。そういった意味で、今まで描かれていない肯定された死というのが描かれていると思うんですよ。でもそれ=“生きる”ことも描いているんです。やっぱり死を真剣に考えれば考えるほど、そこには生きるということがすごく浮き彫りになってきたりするんですよ。その中でやっぱり、生きることは死ぬことと向かい合わなければいけないな、と思うんですが、そこに向かい合えば合うほど、地道に人生を歩んでいる方たちの顔が浮かんでくるというか。そういう方たちこそ、人として一番大事なところに向かい合って生きているんじゃないかなという気がするんですよ。そういう気持ちにさせられた映画でもあるんです。

だから是非そういう方たちに観ていただきたいんです。だからといって何かを掴み取って欲しいとか、感じ取って欲しいとかよりは、ただ自分の生き方が間違っていなかったんだ、という確認になってもらえれば嬉しいと思うし、本当にそういう方たちの応援歌のような映画であって欲しいと思います。地味な映画ですので、アバンギャルドな捉え方はされないと思いますが、だからこそ素敵だなと思うんです。そこを売りにしていないというか、観ればなんとなく気づくという。

往々に忙しい日常を送っていらっしゃるのでなかなか映画を観る暇はないとは思うんですが、是非とも生活の足をちょっと緩めて本作をご覧になってみてください。
編集部の呟き
劇中の弱々しい姿が印象に残っていただけに、実際お会いした津田さんの42歳とはとてもじゃないけど思えないほど若々しく艶々したお肌と、明朗快活で溌剌とした雰囲気にびっくり!さすが俳優だな〜と感心しきり。しかもものすごい小顔!ドギマギしながらのインタビューでしたが、とても深い考えをお持ちの方で、真摯に質問に答えてくださいました。 インタビュー後のカメラショットで、自動的に立ち上がったカメラのフラッシュに驚いていた姿がとてもチャーミングでした。
(取材・文・写真:山本絵里)
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