[人物ブレイク]
嵐のような韓流スターのブームは落ち着きを見せ、数年前と比べると韓国映画の公開本数も減ってしまった印象がある。そんな状況のなか公開される「チェイサー」は、文句なしにおすすめしたいクライム・サスペンス。ソウルで実際に起きた連続猟奇殺人をモチーフに、殺人者を追いかける元刑事の奮闘を描いた作品だ。異常犯罪者の心理をもっともらしく意味づけするシーンはなく、登場人物たちはそれぞれの欲望を胸にソウルの街角をひたすら走って走って走りまくる。映画は一瞬たりとも緊張感を失わず、観る者は彼らの壮絶な追いかけっこを目撃しながら、手に汗握るしかない。驚くことに長編監督デビューとなる新鋭、ナ・ホンジンがメガホンをとったこの作品が動員500万人を突破し、韓国アカデミー賞をはじめ主要な映画賞を独占したことは、韓国映画界をわかせた“事件”だった。そして「チェイサー」の大ヒットにより、実力派若手俳優としての存在感を示したのがハ・ジョンウだ。静かに淡々と獲物に手を下し、警察の尋問にはにやにやと薄気味悪い笑みを見せる殺人者。記号的なスタイルに頼ることのないジョンウの演技によって、底知れない異常犯罪者の狂気が恐ろしいほどに伝わってくる。レオナルド・ディカプリオがハリウッドでのリメイク権を獲得したことも話題となっているが、マーティン・スコセッシは「ディカプリオやマット・デイモンをはるかにしのぐ可能性を持つ」と語ったという。
父親は人気俳優のキム・ヨンゴン。親の七光りに甘えることなく、スターではなくあくまでもアクターを目指そうという意志は、彼のフィルモグラフィから読みとくことができる。本名のキム・ソンフンとして「マドレーヌ」「スーパースター☆カム・サヨン」などに出演。ドラマ「プラハの恋人」のボディ・ガード役などで注目を集めた彼の演技力が評価されはじめたのは、映画「許されざるもの」だろうか。軍隊を舞台にした主演作は、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にも出品された。以降、鬼才、キム・ギドク監督の「絶対の愛」「ブレス」、ヒットドラマ「H.I.T.」と出演作を重ねていく。不妊に悩む人妻との契約が愛に変わっていくラブストーリー「セカンド・ラブ」は、アメリカで撮影を行った米韓合作映画。実は英語も堪能なジョンウだが、不法滞在者を演じるためにあえて拙い英語をこなしている。
2008年は「チェイサー」とともに、ホストを演じた「ビースティ・ボーイズ」、「シークレット・サンシャイン」で知られるチョン・ドヨン共演のラブストーリー「素敵な一日」も公開され、まさにハ・ジョンウ・イヤーともいうべき一年になった。今年は妻夫木聡と共演した日韓合作の「ノーボイズ,ノークライ」も公開に。正統派イケメンではないのに目が離せなくなる艶っぽさがある、ハ・ジョンウの日本での知名度がさらに上昇することは間違いない。

